第42話 06 承认されること
朝の光が街を照らし、淡い霧がまだ完全には消えていない。
ひんやりとした湿気が空気を包み込み、静かな朝の街にはほとんど人影がなかった。時折、遠くで屋台の店主たちが店を開く音が聞こえ、鍋や食器が触れ合う澄んだ音が響く。それがこの静寂な朝に、わずかな生活の気配を加えていた。
少年は慣れた手つきで小さな屋台の荷車を押し、いつもの場所へと向かった。手際よく準備を進め、すべてを整える。火を点けると、淡い煙がゆっくりと立ち上り、鍋に食材を入れたときのかすかな「ジュッ」という音が響く。やがて、ほのかに漂う香りが空気に溶け込んでいく。鍋をかき混ぜながら、彼は手際よく今日の料理を仕上げ、客を待った。
彼は人影のまばらな通りを眺め、静かにため息をつく。そして、ぼそりと呟いた。
「今日こそ、お客さんがたくさん来ますように……。ここ二日間、稼ぎはゼロだったからな。」
淡々とした口調だったが、その瞳の奥には隠しきれない虚しさが宿っていた。
セレナは腕を組み、気だるげに壁にもたれかかる。彼の言葉を聞くと、軽く眉を上げ、どこか面白がるような口調で言った。
「ねぇ、あんたって早く死にたいんでしょ? それなのに、なんでお金なんか気にするの?」
少年は一瞬動きを止め、それから小さく笑った。
「その通りだよ……でも、餓死はさすがに苦しすぎるでしょ?」
まるで当たり前のことのように、あっさりと言う。
「それに、できるだけ稼いでおきたいんだ。自分のためじゃなくて、家族の負担を少しでも減らせたらと思ってね。」
そう言いながら、彼は視線を落とし、持っていた鍋のヘラを一瞬止める。しかし、すぐにまた動かし始めた。
「まあ、死ぬ前に少しでも意味のあることをしておこうって感じかな。」
彼の唇には、かすかな笑みが浮かんでいた。それは皮肉とも、自嘲ともつかない曖昧なものだった。
「もし、もう一つ理由を挙げるとしたら……誰かに認めてもらいたいってことかな。」
彼の声は小さく、どこか寂しげだった。
「たとえ、ほんの少しの慰めにしかならなくてもね。それすらないよりはマシだから。」
セレナは静かに彼を見つめ、琥珀色の瞳の奥で何かを考えていた。そして、少し息を吐くと、首をかしげながら言った。
「……そうなんだ。でも、結局のところ、私はまだあんたがどうして死にたいのか分からないな。」
少年はその言葉を聞き、少し間を置いてから肩をすくめた。
「そんなこと、知ったところで意味ないでしょ?」
彼はそれ以上語ろうとはせず、代わりに視線を通りへと向けた。相変わらず閑散としたままだ。
そして、思い立ったように口を開いた。
「ねえ、ちょっと手伝ってくれない? 今日もお客が来なかったら、俺、マジで飯抜きなんだけど。」
そう言ってから、一拍おいて、わざとらしく唇を尖らせた。
「俺の機嫌が悪くなったら、俺たちの‘目的’がますます遠のくんじゃない?」
セレナは彼の言葉に、面倒くさそうに片眉を上げた。




