第42話 04 「仕事が最悪」
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古びた窓が静かに押し開けられ、ひんやりとした朝の風が頬を撫でる。夜の余韻がまだ完全には消えず、かすかに冷たさを残していた。
二人は軽やかに窓枠を越え、古びた階段を静かに下りていく。木製の段差が足元で軋み、「ギィ、ギィ」とかすかな音を立てる。それはまるで、この場所に刻まれた年月の重みを語っているかのようだった。
空はまだ完全には明るくならず、遠くの空には淡い灰青色が滲む。通りには夜の静寂がわずかに残り、世界はまだ目覚めの途中だった。
微かな光を踏みしめながら、少年の足取りは静かで揺るがない。一方、セレナは気ままに後ろをついて歩きながら、興味深げに周囲を見渡していた。
しばらくすると、退屈したのか、彼女はふいに口を開いた。
「ねえ、君の仕事って何?」
彼女は小首をかしげ、琥珀色の瞳をわずかに細めた。そこにはどこか茶化すような光が宿っている。唇の端には、消え入りそうな微笑みが浮かんでいた。
「こんなに小さな子を雇うような雇い主なんているわけないよね? それに、その小さな体じゃ、できる仕事も限られてるでしょう……少なくとも、力仕事は無理だよね?」
少年はその言葉を聞くと、小さく息を吐いた。歩みを止めることなく、だがどこか慣れたような疲れた声で答える。
「下に、屋台のカートがあるんだ。」
彼は一瞬言葉を切ると、痩せた自分の手をちらりと見下ろし、淡々とした声で続けた。
「毎日、飯を売って生きてる。」
「作れる料理は多くない。でも、一つだけなら、まあ得意なのがある。」
それは感情の起伏のない、ただ事実を述べるだけの口調だった。だが、その言葉の隙間から、拭いきれない疲労が滲んでいた。
「そんな毎日を繰り返してる。」
そう言い終えるか否かのうちに、彼はふと後ろを振り返った。ついてきたセレナを一瞥し、少し眉をひそめながら、無表情で問いかける。
「……で? なんでついてきたんだ?」
足を止め、わずかに首を傾げながら、探るような眼差しを向ける。
「まさか……手伝うつもりなのか?」
少年の問いに、セレナは一瞬きょとんとしたが、すぐに楽しげに眉を上げた。少し考えた後、ゆっくりと首を横に振る。
「違うよ。」
彼女の声は気だるげで、その表情にはどこか可笑しそうな色が滲んでいる。
「ただ、部屋の中にじっとしてるのが退屈だっただけ。だから、何か面白いことがないかと思ってついてきただけ。」
その声はまるで「適当な口実を並べてるだけ」とでも言うような軽やかさだった。
少年はそれを聞くと、ふっと口元を歪めた。だが、その笑みにはどこか皮肉めいた影が落ちていた。
「俺の人生なんて、そんなに面白くないぞ。」
彼は静かに言った。その瞳には、深い陰が落ちている。
「毎日が、ただの繰り返し。何度も、何度も、同じことの繰り返し。まるで行き止まりの道を歩いているみたいに。」
「もし、何か面白いことを期待してるなら……がっかりすると思うけど?」
そう言うと、彼は小さく息をつき、目線を上げた。そして、まっすぐにセレナの目を見据える。
「でも、どうせここまで来たなら、手ぶらでついてきたってわけじゃないよな?」
「ちゃんと手伝えよ。」
その声には、どこか淡々としていながら、微かに強制するような響きがあった。
セレナは眉をひそめたが、その口元にはいたずらっぽい笑みが浮かぶ。
「なんで?仕事が最悪。」
腕を組みながら、気楽そうに問い返す。
「別に手伝う義理なんてないでしょ?」
「それよりも、もっと面白そうなことを探しに行きたいんだけど?」
彼女の言葉には、どこか子供じみた無邪気さと、ちょっとした悪戯心が混ざっていた。
少年はすぐには答えず、一瞬沈黙した。そして、口元にかすかな笑みを浮かべる。だが、それはどこか冷たい微笑だった。




