第7話01過去はもう今と同じではありません
十数年前——それは、遠い昔のことだった。
今では「夕焼け村」と呼ばれるこの地も、あの頃はまだ名もなき小さな集落に過ぎなかった。
あの日、空は燃えるような紅に染まり、沈みゆく太陽が地平線の彼方へと消えようとしていた。村の中央では、火の精霊たちが円を描くように集まり、豪快に飲み、食らい、笑い合っていた。炎の揺らめきに照らされた彼らの姿は、まるで踊る炎そのもののように力強く、そして誇り高かった。
突然、宴の中心にいた巨大な火の精霊が、大きな声で言った。
「今日という日は、我らにとって忘れられぬ日となる!」
他の火の精霊たちもそれに続くように杯を掲げ、歓声を上げた。
「我らがこの村を手にした記念すべき日だ!」
彼らは笑い、互いに酒を注ぎ合いながら盛大に祝っていた。しかし、その歓喜の宴が彼らにとって最後の宴になることを、この時まだ誰も知らなかった。
「リーダー、お前は本当にすごいよな!」
ひとりの火の精霊が杯を傾けながら、豪快に笑った。
「こんなにもあっさりと、この村を我らのものにしてしまうとはな!」
「まあ、元々この村には大した人数もいなかったしな。」
また別の火の精霊が肩をすくめる。
その言葉に、リーダーは杯を置き、ゆっくりと口を開いた。
「だが、忘れるな。」
その声は低く、しかし確かな威圧感を持って響いた。
「我らは殺し屋ではない。必要のない殺しは決してしない。それが、我らの誇りだ。」
周囲の火の精霊たちは、一瞬の静寂の後、力強く頷いた。
すると、リーダーは振り返り、ひとりの若き火の精霊に視線を向けた。
「カニディ。」
名を呼ばれた小さな火の精霊は、驚いたように顔を上げた。
「お前が、私の後を継ぐのだ。」
その言葉に、カニディの瞳が大きく見開かれる。しかし、次の瞬間には、幼きながらも確かな決意を込めて、力強く頷いた。
「はい、パパ!必ず立派に成長してみせます!」
リーダーは満足げに微笑み、手を伸ばしてカニディの頭を撫でた。
「よし、それでは宴の続きを楽しもう!」
再び賑やかに笑い声が響き、杯が交わされ、宴は最高潮へと向かっていった。
——しかし、その幸福な時間は、長くは続かなかった。
解放された村人たちはすぐさま国へとこの出来事を報告し、国はただちに軍を派遣。鋼鉄の鎧に身を包んだ兵士たちが、容赦なく火の精霊たちへと襲いかかった。
血が流れ、炎が舞い、仲間たちの叫び声が響く。
負傷した者、無念のまま息絶えた者——
我らは、ただ共に生きていただけなのに。
誰ひとり傷つけはしなかったというのに。
それでも、彼らは我らを「災い」と決めつけた。
それでも、彼らは容赦なく我らを討ち果たした。
——炎の宴は、無情なる刃によって終焉を迎えた。




