第41話 04 「人混みの海」
フィードは微かに頷き、ゆっくりと街を歩き続けた。
その鋭い視線は、まるで獲物を狙う鷹のように、雑踏の中をさまよう人々の間を縫うように走る。しかし、どれだけ注意深く探しても、ニクスの姿はどこにも見当たらなかった。
どうすればいい?
足を止め、フィードは眉をひそめながら、あらゆる可能性を思考の中で巡らせた。
まさか、ニックスの奴……攫われたのか?
いや、それは考えにくい。ニックスの実力は折り紙付きだ。よほどのことがなければ、そう簡単に捕まるはずがない。だとしたら、彼は一体どこへ行ったのか?
フィードは指の関節を軽く顎に当て、じっくりと思案する。
……まさか、腹が減りすぎて、どこかの食堂で朝まで食べ続けていたなんてことは……?
その考えが頭をよぎった瞬間、彼は首を横に振り、即座に打ち消した。ニクスは確かに食いしん坊なところがあるが、それでも食事のために夜通し姿を消すようなことはあり得ない。
「はぁ……まったく、俺にシャのような論理的思考力があればな……」
フィードはこめかみを揉みながら、苛立たしげに息を吐く。
一度冷静になり、今まで得た情報を整理する。
ニックスはどこへ行った?もし自らの意志で姿を消したのなら、その目的は何なのか?
もし何者かに連れ去られたのなら、敵はどこへ彼を連れて行った?
そして……なぜ"小N"を……いや、今は"シン"と呼ぶべきか……彼女を連れて行く必要があったのか?
考えれば考えるほど、状況は混沌とし、霧に包まれた迷路のように出口が見えなくなる。
その時——
まるで雷光が脳内を貫くように、ひとつの考えが浮かんだ。
……もしかすると、近くの店の人がニクスを見かけているかもしれない!?
この可能性に、フィードの目がかすかに光る。
確実な情報が得られるとは限らないが、何の手掛かりもないまま彷徨うよりは遥かにマシだ。
そうと決まれば、即行動だ。
フィードはすぐに周囲の店を一軒一軒訪ね歩き、店主や従業員に聞き込みを始めた。
「すみません、紫色の瞳をした男を見ませんでしたか?そばに小さな女の子がいたかもしれません。」
「昨夜から今朝にかけて、この通りを通った怪しい人物はいませんでしたか?」
「彼は剣を持っていて、茶色の髪、黒い上着を着ています。」
だが、どれだけ尋ねても、返ってくる答えはどれも同じだった。
「申し訳ないけど、見てないな。」
「昨夜?うーん……特に印象に残る人はいなかったね。」
「ごめんよ、坊や。」
フィードの心は次第に重くなっていく。
まさか、本当に何の手掛かりもないのか……?
彼は肩を落とし、ため息をつきながら道端に立ち尽くした。何気なく視線を向けた先、ふと目に入ったのは——
"古道具屋"
店のショーウィンドウには、様々な骨董品が並べられている。
店内からは落ち着いた照明が漏れ、どこか神秘的で、時の流れが緩やかに感じられる空間だった。
……ここが最後の望みかもしれない。
わずかに残る期待を胸に、フィードは深く息を吸い込み、木製の扉を押し開けた。
扉に取り付けられた風鈴が小さく揺れ、澄んだ音が店内に響く。
「いらっしゃいませ。」
店の奥に立っていた若い店員が、顔を上げ、柔らかな微笑みを浮かべながら出迎えた。口調は礼儀正しく、どこか落ち着いた雰囲気を持っている。
「何かお探しでしょうか?」
フィードは一歩前に進み、店員の目をじっと見つめながら、わずかに焦りを滲ませた声で尋ねた。
「えっと……少しお聞きしたいことがあるんですが、よろしいですか?」
「はい、どうぞ。」
「あなたは、この人を見かけませんでしたか?」
フィードは一瞬言葉を選び、慎重に特徴を伝えた。
「俺と同じくらいの身長で、紫色の瞳を持つ男です。たぶん、そばには小さな女の子がいたかもしれません。剣を携えていて、茶色の髪、黒い上着を着ています。昨夜から今朝にかけて、この通りを通らなかったでしょうか?」
そう言い終えた瞬間、フィードは無意識のうちに息を止め、店員の表情を食い入るように見つめた。
——果たして、何か手掛かりは得られるのか?




