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10万pv突破しました!!!【每日更新】史上最強の幽霊剣士  作者: Doctor Crocodile


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第41話 「星影の彼方」

ニックスはすでに心の準備をしていた。

星の過去が決して明るく温かなものではないことは、最初から分かっていた。

しかし——彼女が歩んできた闇の深さは、彼の想像を遥かに超えていた。


まるで底なしの奈落のように、果てしなく暗く、冷たい。


夜の静寂の中、星の声が静かに響く。

その言葉には、どこか押し殺した痛みが滲んでいた。


「私が生まれた時から、ずっと監獄のような場所に閉じ込められていたの。」


彼女はゆっくりと語り始めた。

その瞳は微かに揺れ、まるでこの闇夜の先にある、遠い記憶を見つめているようだった。


「私の世界は、ずっと暗闇だった。光なんて、一筋も差し込まない。

私の一日は、ただ三つのことだけで成り立っていた——

眠ること、食べること、そして……採血されること。」


ニックスの手が、わずかに力を込める。

指先に宿る感情は、抑えきれないほどの怒りと痛み。

けれど、星は淡々と続けた。


その声は、あまりにも遠く、どこか他人事のようでさえあった。


「そんな日々が、ずっと続いていた。

それが終わったのは、私が六歳くらいの時。」


星は少し言葉を切り、静かに息を整える。

そして、再び口を開いた——


「その日、私は実験室に連れて行かれたの。」


——実験。


その言葉が紡がれた瞬間、時間が止まったかのようだった。

夜風さえも冷たく重くなり、張り詰めた空気が二人を包み込む。


ニクスはじっと耳を傾ける。

そして、彼の脳裏には、これまで見たことのない光景が次々と浮かび上がった。


無機質な金属の壁、白く眩しい照明が作り出す鋭い影。

白衣を纏った研究者たちの冷たい視線。

感情のないまま、ただ実験材料として扱われる被験者たち。

機械が発する低い振動音、薬品の鋭い匂い——


彼の呼吸は、次第に荒くなる。

眉間に刻まれる皺が深くなり、拳を握りしめる力が強まった。


星は、一言一句、丁寧にその実験の詳細を語っていく。

まるで物語を語るように。

まるで、それが"自分のことではない"かのように。


しかし——彼女の語るその一つ一つが、ニクスの心を鋭く抉った。


抑えようとしても抑えきれない怒りと痛みが、胸の奥で膨れ上がる。


最初はただ静かに聞いていた彼の表情も、次第に苦しげに歪み、やがて耐えきれなくなった。


無意識のうちに強く握りしめた拳——

爪が食い込み、手のひらに小さな痛みを生む。

けれど、それすらも霞むほどに、心が痛かった。


長い沈黙の末、彼はやっとの思いで冷静さを取り戻し——


次の瞬間、迷いなく星を抱きしめた。


「……大丈夫だ。」


低く、しかし確かな決意を持った声が、夜の空気を震わせる。


「もう、何も心配することはない。

俺は絶対に、もう二度と、お前にこんな苦しみを味わわせない。」


その言葉には、絶対的な約束が込められていた。

まるで、世界の全てを敵に回してでも守ると誓うかのように——


彼は何度も何度も、同じ言葉を繰り返す。

それは星を安心させるためだけではなく、自らに刻み込むための誓いだった。


星は静かに目を閉じ、彼の腕の中で微笑んだ。


「夜が、こんなに私を気にかけてくれる……それだけで、私はもう十分幸せだよ。」


彼女の声は、夜風のように優しく、心を撫でるようだった。


「今の私は、世界で一番幸せな人かもしれない。

だって、こんなに素敵なお兄ちゃんがいるんだもん。」


彼女の言葉に、ニクスの表情がわずかに緩む。


「だからね、夜。もう私の過去を悲しまないで?」


そう言って、彼女は空を見上げた。


深い夜色の中に浮かぶ星々が、まるで彼女の瞳の中で静かに瞬いているようだった。


「夜が言ってたでしょう? これはもう、過去のことだって。」


ニックスはゆっくりと頷いた。


けれど——


"過去のこと"で済ませるつもりはない。


彼の胸には、もう一つの確かな想いが生まれていた。


奴らを、許すつもりはない。


この世界の暗闇に潜み、無数の罪を重ねてきた者たち。

冷酷な実験を繰り返し、人を"道具"としてしか見ていなかった者たち——


そんな連中を、ただ闇に葬らせるわけにはいかない。


すべての真実を、この世界に曝け出してやる。


そうしなければ、星は本当の意味で安全にはならない。

そして、二度と彼女のような犠牲者を生み出させないためにも——


ニックスは、静かに拳を握りしめた。


その瞳は、暗闇を切り裂く刃のように鋭く光る。

夜風が吹き抜ける中、その決意は揺るがぬ炎となり、静かに燃え続けていた。


——これは、始まりにすぎない。



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