第40話 19 醤油ミルク
ニックスは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「俺が好きなのは……」
エイトとフィードの心臓は高鳴る。
さあ、どちらが勝つのか——!?
「……醤油ミルク。」
——沈黙。
全員の視線がニックスに集中する。
その表情には、言葉にならない複雑な感情が浮かんでいた。
数秒後、エイトが額を押さえながら溜息をつく。
「なあ、頼むから、これから外で"俺の師匠"とか言わないでくれ。」
フィードも肩を落とし、がっくりと呟く。
「俺たち……めっちゃ仲良かったはずなんだけどな。もう無理かも。」
全員がため息をつきながら、静かに背を向け、歩き始める。
ポツンと取り残されるニックス。
「おいおい!待てって!そこまで変な飲み物じゃないだろ!?」
しかし、もう誰も彼の言葉に耳を傾けなかった。
——こうして、壮絶な戦いは幕を閉じた。
そして、スターが牛乳を選んだことで、最終的な勝者はフィードとなった。
温泉の湯気が立ち込める中、遠くには皆の楽しげな笑い声と、ニックスの悲しげな叫びが静かに響いていた。
部屋にはほのかに木の香りが漂い、柔らかな灯りが畳の上に落ちている。几人は囲炉裏の前に座り、机の上には精巧な料理と酒がずらりと並んでいた。窓の外は深い夜色に包まれ、そよ風が障子を揺らし、静かな夜の気配を運んでくる。
ナイトは楽しげに酒杯を持ち上げ、口元にいたずらな笑みを浮かべながら言った。
「さあ、今ちょうどいい雰囲気になってきたし、みんなで飲みゲームをしようぜ!」
「えっと……すみません、そういうゲームは全くやったことがなくて……」ニックスは一瞬固まり、困惑した表情で周りを見渡した。
すると、エリーサ、シャー、フィードもほぼ同時に手を挙げ、同じように「未経験です」と主張する。
「えぇっ!? 本当に誰もやったことないの?」ナイトは目を丸くし、信じられないような表情で皆を見回した。そして深いため息をつきながら「やっぱりな」と納得したように呟く。
「はぁ……やっぱりお前らのいた世界の未成年は面倒くさいな。でも! ここではみんな立派な大人だろ? 堂々と酒を飲めるんだから、こういう遊びも経験しとかないと! だから頼むよ、一回だけでも付き合ってくれ!」
ナイトがほとんど懇願するように言うと、ニックスは微妙な顔をしながらも、口を開いた。
「うーん……でも、そう言われても、どうやって遊ぶのか全然分からないんだけど。」
「心配無用!」ナイトは勢いよく机を叩き、目を輝かせながら説明を始める。
「ルールは超シンプル! 『表面張力』っていうゲームだ。順番にコップに酒を注いでいって、誰かが限界を超えて溢れさせたら、その人がそのコップの中身を全部飲み干さなきゃならないんだ!」
「へぇ……なんか面白そうじゃん?」フィードは興味深そうに眉を上げ、楽しげに微笑んだ。
しかし、ニックスは机の上の酒瓶をちらりと見て、不安げに呟いた。
「でも……俺、一杯飲んだらたぶんすぐ酔っちゃうと思うんだけど。」
「エリーサ、お前はやめとけ。」隣にいたサンディが即座に言い放ち、腕を組んで断固とした態度を見せた。「お前、前にほんの少しアルコールが入ったケーキ食べただけでぶっ倒れたじゃん。素直に見学してろ。」
「そ、それは違う! あの時はただの事故! 偶然! ただの運が悪かっただけ!」エリーサは顔を真っ赤にしながら大慌てで反論し、手をブンブンと振った。「だからそんな恥ずかしい話を掘り返すのはやめてぇぇぇ!」
「んー……でも、あの時のアリサ、すっごく可愛かったけどね?」サンディはわざとらしくゆっくりと言い、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。




