第40話 18 コーヒーかミルクか 2
夜の空気は穏やかで、微かな風が温泉の湯気をそっと揺らしていた。霧のように漂う蒸気が空気を包み込み、幻想的で心地よい雰囲気を作り出している。湯上がりの一行は浴衣に着替え、休憩処に集まり、ゆったりとくつろいでいた。
フィードは木製のトレイからガラス瓶の牛乳を手に取り、慣れた手つきで蓋を開けると、一口飲み干し、満足げな表情を浮かべた。
「温泉の後はやっぱり牛乳に決まりでしょ!」
彼は自信たっぷりにそう言い切った。
しかし、エイトは呆れたように首を振り、手元のコーヒーカップを軽く指先で叩きながら、不敵な笑みを浮かべる。
「いやいや、それは間違ってる。信じてくれ、温泉の後に飲むべきはコーヒーこそが正解なんだよ。」
まるで人生の重大なテーマについて議論しているかのような真剣な口調でそう語ると、彼はザックの方を向いた。
「なあ、ザック?お前もそう思うだろ?」
突然話を振られたザックは、一瞬驚いたように瞬きをし、やれやれと肩をすくめた。
「いや、お前なんでそんなに真剣なんだよ……?」
エイトは鼻眼鏡をかけるような仕草をしながら、得意げに答えた。
「温泉といえば、漫画では超重要なシーンだろ?俺が読んできた漫画では、温泉の後に飲むのはいつもコーヒーなんだ!だから現実でも、当然その"黄金ルール"に従うべきなんだよ!」
得意満面で周囲を見渡そうとしたその瞬間——
サマーとサンディがすでにフィード側についていた。
「温泉の後に牛乳を飲むことで、カルシウムを補給できるし、疲労回復にもなる。それに水分補給としても非常に大切なことなんだよ。」
サマーは冷静な表情で、まるで科学的に証明された事実を述べるかのように淡々と語った。
エイトの口元がピクリと引きつる。
まだだ……まだ希望はある……!
「サンディ……お前は、俺の味方だよな?」
最後の希望をかけてサンディに視線を送る。
サンディは少し考えたあと、にこっと微笑みながら頷いた。
「うん……私も温泉の後はコーヒー派かな。」
エイトがようやく勝利の笑みを浮かべたその時——
「サンディ!まさか……裏切る気!?」
エリサが勢いよく振り返り、驚愕の表情でサンディを見つめた。
「そんな簡単に裏切るなんてひどいよ!私たち、今まで一緒に買い物に行ったり、楽しい時間を過ごしてきたのに……!」
「ちょ、ちょっと待って!」サンディは慌てて手を振る。「ただの雑談でしょ!?そんな真剣にならなくても……」
エイトはこの混乱を利用し、すかさず話題を変えた。
「なあ、ナイト!お前は何を飲むんだ?」
突然の質問にナイトは一瞬ビクッとし、目を瞬かせると、少し考えた後に答えた。
「えっと……たぶん、お茶かな?」
——沈黙が訪れた。
エイトとフィードをはじめ、全員が驚いたように顔を見合わせる。
「お前……まさかの、お茶派!?」
エイトが信じられないという顔をする。
「なんか……お前のキャラに合わないんだが。」
ザックも頷く。
「だよな。温泉の後に奇妙な飲み物を飲むタイプかと思ったのに。」
「おいおい!」ナイトは憤慨しながら腕を組んだ。「つまり、俺がそんなに頭良さそうに見えないってことか?それは完全に外見で判断してるだろ!失礼すぎる!」
全員がくすくすと笑う中、フィードがふと思い出したようにニックスへ視線を向けた。
「そういえば、ニックスは何を飲むんだ?」
場の空気が再び張り詰める。
全員がニックスに注目し、エイトとフィードは息をのんだ。
——この瞬間が決着の時!コーヒーか、牛乳か。勝者はどちらだ!?




