第6話16死からの復活
「火の精霊様、もう出てこないと、この小僧に殺されてしまうかもしれませんよ。」
静寂が森を包み込む。風がざわめき、夜の闇に炎の残り香が漂う。
そして――
「ふふ……もう気づいていたのか。まあ、確かに分かりやすいからな。」
どこからともなく響く、不敵な声。
その瞬間、森の奥の闇がうねるように揺らぎ、ゆっくりと人影が現れる。
それは、カニディ――いや、まったく同じ姿の“もう一人のカニディ”だった。
「……まさか。」
ニックスの瞳孔が大きく見開かれる。喉が乾き、背筋に冷たい汗が流れた。指先が震え、剣を握る力すら失われていく。
「ふふ……さっき倒したのは、私の“分身”だよ。」
カニディ――いや、本物のカニディは、楽しげに笑いながら続ける。
「分身とはいえ、私の力の半分……いや、せいぜい十分の五程度だったがね。」
その言葉を聞いた瞬間、ニックスの心臓が跳ね上がる。
(十分の五……!? 俺の全力が、たったのカニディの半分にも満たなかったってことか……!?)
胃の底に冷たい鉛の塊を押し込まれたような感覚。
(くそ……まったく、化け物め……!)
だが、カニディはすでにニックスの消耗を見抜いていた。
「なかなかやるな。……本当はもう少し戦いたかったが、残念ながら、お前はもう魔力も尽きかけている。」
彼は冷ややかに笑いながら、ゆっくりと前へと歩みを進める。
「だが、認めよう。お前は立派な相手だった。」
その言葉に、ニックスは唇を噛み締めた。
だが、次の瞬間、空気が張り詰める。
カニディの瞳が鋭く光り、表情が一変した。
「――ならば、私の“全力”で、お前を終わらせてやる、ニックス。」
言葉と共に、カニディはゆっくりと右手を掲げ、指先を空へと向ける。
次の瞬間――天地が赤く染まった。
空に、凄まじい量の炎が渦巻きながら集まり始める。
その光景は、まるで天と地を繋ぐ“炎の竜巻”のようだった。辺りの温度が急激に上昇し、焦げた草木の匂いが鼻を突く。
ゴゴゴゴゴ……!!
轟音が響き、空に集まった炎が形を変えていく。
剣、槍、斧、鎌――無数の武器が、炎から生まれるかのように顕現し、天空に揺らめく火焔の軍勢となった。
その光景は、まるで神話に語られる“炎の神”が降臨したかのよう。
カニディは冷酷な笑みを浮かべ、静かに告げる。
「さようなら、ニックス。」
その声には、一片の情もない。ただ、確実に敵を葬る者の冷たい決意だけが宿っていた。
「……お前のことは、私のかつての相手として覚えておこう。」
そして――灼熱の死が降り注ぐ。




