第40話 14 少女の瞳には、まるで星空がそのまま映し込まれているかのようだった。
夜風が静かに吹き抜け、ひんやりとした感触を残しながらも、この穏やかな空気を揺るがすことはなかった。月光が庭園に降り注ぎ、並んで座る二つの影を優しく照らし出す。夜の闇が、彼らの輪郭を柔らかく包み込んでいた。
ニックスはゆっくりと顔を傾け、深く穏やかな瞳で隣に座る少女を見つめる。そして、低く静かな声で尋ねた。
「……怖いのか? もし俺が元の世界に戻ったら、お前は独りになってしまうって?」
彼の言葉には詰問の色はなく、ただ純粋な問いかけが込められていた。まるで、彼女の心の奥に触れようとするかのように。
星はわずかに肩を震わせ、長い睫毛が微かに揺れた。指先が無意識のうちに服の裾をぎゅっと握りしめる。伏せた瞳、微かに震える唇。何かを否定しようとするように口を開きかけたが、結局、彼女は静かに微笑んだ。
「……そ、そんなことないよ。」
その声はかすかで、しかし、抑えきれない感情が滲んでいた。
「私は……迷惑になりたくないだけ。夜には、夜自身の進むべき道があるでしょう? だから……大丈夫。」
精一杯、気丈に笑おうとする。しかし、その微笑みの奥には、隠しきれない寂しさが滲んでいた。
ニックスはそんな彼女をじっと見つめ、やがて、深く息を吐くように言った。
「……安心しろ。」
その声は夜風のように穏やかで、しかし揺るぎない力強さを秘めていた。
「もし帰る方法を見つけたら、必ずお前も連れて行く。」
彼の言葉は確固たる決意に満ち、一言一言が確かに心へと響く。まるで誓いのように、微塵の迷いもなかった。
「約束する。」
そう言って、ニックスはそっと星の肩に手を置き、安心させるように微笑んだ。
「だから、大丈夫。俺はお前を置いていったりしない。絶対に。」
夜の闇の中、彼の眼差しは温かく輝いていた。それは、まるで夜空に瞬く星のように、揺らぐことのない光。
「前にも言っただろう?」
ニックスは顔を上げ、漆黒の空を見つめる。その深い瞳には、無限の宇宙が映っているようだった。
「俺は……この夜空のように、ずっとお前を守る。」
木々が風に揺れ、さらさらと葉擦れの音を奏でる。それはまるで、彼の言葉にそっと寄り添うかのようだった。
「俺はずっと思ってたんだ。」
彼の声は低く、静かに響く。
「"人が存在する意味" って、すごく大事なものだと思う。」
「生きているなら、自分がここにいる理由を見つけなきゃいけない。」
ふと、ニックスは肩をすくめ、少し茶化すように笑った。
「じゃないと、人生って……退屈すぎるだろ?」
星はじっと彼を見つめ、彼の言葉を噛み締めるように静かに瞬きをした。
「もしかしたら……お前は今まで、そんなこと考えたこともなかったかもしれない。」
ニックスは彼女の目をまっすぐに見つめ、優しく、けれど確かな意志を込めて言う。
「"生きる意味" が何なのかなんて、今は分からなくてもいい。」
「でも、これから俺と一緒に探していこう。」
その言葉には、夜を照らす星のような確信があった。
「旅の途中で、お前が本当に好きなことを見つけるかもしれない。」
「それに夢中になれたら——きっと、自分の存在の意味も、少しずつ分かるようになるはずだ。」
夜空はどこまでも広く、果てしない。
「それに、聞いたことがあるんだ。」
ニックスは少し首を傾げ、照れくさそうに笑った。
「"ただ存在しているだけで、意味がある" って。」
「俺もまだ、その本当の意味はよく分からないけどさ。」




