第40話 08 法律の意義と正義の可能性
翌日 - 監獄にて
硬い石壁の下、灯りが鉄格子を越えて揺れ動き、影を投げかける。
バイスタは腕を組み、鋭い眼光で机の前に座る老人を睨みつけていた。
その口調には明らかな不満が滲んでいる。
「拷問のほうが手っ取り早いんじゃないか?」
バイスタは冷たく老人を見つめ、その目にはわずかな苛立ちが浮かんでいた。「こんな奴に情けなんて必要ない。法律の意義とは何だ?それは罰だ。罰は厳しければ厳しいほどいい。それこそが本当の抑止力になる。もし皆がお前のように犯罪のコストを下げるなら、ますます犯罪者が増えるだけじゃないのか?」
老人は静かに茶を口に含み、まるでバイスタの激しい言葉など意に介していないかのような穏やかな表情を浮かべていた。そして、ゆっくりと茶杯を置き、深い眼差しで目の前の青年を見つめる。
「確かに、お前の言うことにも一理ある。しかし、一つ考えたことはあるか?」老人は落ち着いた口調で問いかけた。「さっき我々がここに来た時、あの若者は地下の誰かを人質に取ることができたはずだ。だが、そうしなかった……なぜだと思う?」
バイスタは眉をひそめ、黙り込んだ。
「答えは単純だ。」老人は微笑み、指先で茶杯を軽く叩いた。「それは犯罪のコストの問題だ。もし彼らが、捕まった瞬間に確実に死ぬと分かっていたら、果たして交渉なんて選んだだろうか?おそらく、最初から人質を取って、自らを追い詰めていただろう。そうなれば、状況はもっと危険になるとは思わないか?衝動的な行動で、さらなる犠牲者を生む可能性すらある。」
老人の声は静かだが、そこには揺るぎない威圧感があった。
「確かに、厳罰によって犯罪率は下がるかもしれない。しかし、もしすべての犯罪者が生き延びる可能性ゼロだと悟ったら、彼らに捕まった人間が生き残る確率はどれほどある?」老人は一呼吸置いて続けた。「私は犯罪を助長しようとしているわけではない。ただ、犯罪者に狙われた者たちが、より生き延びやすい環境を作るべきだと言っているんだ。法律の強さとは、誰もが逆らえないことにある。それは罰の厳しさではない。」
バイスタの目がわずかに揺らぐ。まるで、老人の言葉が心のどこかに引っかかったかのようだった。彼は拳を固く握りしめ、低く言い放つ。
「逆らえない?バカバカしい!」
彼の瞳は鋭く光り、不動の信念が宿っていた。「お前は誰も法律から逃れられないと言うが、この世界に本当に絶対的な正義なんて存在するのか?どれだけ醜悪な罪を犯しても、闇に葬られ、裁かれることのない者は無数にいる。水面下に沈んだ真実を、一体誰が掘り起こす?仮に今この問題を解決したところで、明日には新たな闇が生まれるだけじゃないのか?」
バイスタは深く息を吸い込み、燃え盛る炎のような眼差しを向ける。「だからこそ――俺はもっと強くなる。この世界で最も強い男になれば、世界は俺の力で変わる!」
その声はまるで誓いのように、静寂の中に力強く響き渡った。




