第40話 07 劇は幕を閉じた
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夜は深く沈み、まばらな枝葉の隙間から微かな光がこぼれ、老人の威厳ある皺深い顔を淡く照らしていた。
彼はただ手を軽く振るだけで、空気中に冷気が凝結し、一通の氷で封じられた手紙が静かに浮かび上がる。
封の表面を覆う氷晶がゆっくりと流動し、仄かな蒼光を放つ。その輝きは、まるで言葉にできない何かを秘めているかのようだった。
老人が手を軽く上げると、その手紙は音もなく牙の手のひらへと落ちた。
指先に触れた瞬間、冷気が肌を刺し、骨の芯まで凍てつかせるような感覚が走る。
「さて——」
老人の声は夜闇を裂く氷刃のように冷たく響いた。
「“時の石”はどこにある? それと、お前たちの依頼人は誰だ?」
牙は細めた目で、手の中の氷の手紙を指先でなぞると、口元に微かな笑みを浮かべた。
「それくらい、別に構わないさ……」
彼の声は依然として落ち着いていた。むしろ、どこか余裕すら感じさせる。
「ただ——少し待ってくれ。」
「そいつが、石を持って戻ってくる。」
牙の言葉が完全に終わる前に、空気が突如として炸裂した——
「三——」
「二——」
「一——!!」
その最後の瞬間、沈黙の森を切り裂く鋭い破裂音!
ドン!!
暴風が唸り、木々が揺れる。
闇に包まれた林の奥から、一つの影が猛獣のごとく飛び出した!
夜の闇に、その瞳は血のように紅く燃え盛っていた。
怒りが黒夜を焼き尽くすかのように——
「貴様ら——」
「誰一人として動くな!!」
雷鳴のような咆哮が轟き、圧倒的な怒りと殺気が辺りを包む!
ボーディが戻ってきた!
荒く息をつき、胸を大きく上下させながら、彼の手には幽玄な青い光を放つ“時の石”が強く握られていた。
指の関節が白くなるほど力を込めている。
だが、今の彼の視線はただ一つの場所に向けられていた——
氷の中に閉ざされた、あの姿——
何度も彼らの前に立ち塞がり、守り続けてくれた、彼らの姉……
静かに、そこに立っていた。
氷霜に覆われたその身体、周囲に広がる冷気。
まるで時間さえも止まったかのような、沈痛なる静寂。
「俺の姉貴を返せ!!」
「さもなくば——」
「貴様らが、完全に腐り果てる感覚を味わわせてやる!!」
彼の怒りは、燃え盛る炎のごとく言葉に乗せられた。
漆黒の霧が彼の周囲にうっすらと渦巻く。
それは彼の体内に秘められた、最も恐るべき毒——
彼が望むなら、この場は瞬く間に毒の霧に飲み込まれるだろう。
その場の空気が凍りつくほどの殺意が、辺りを支配した——
……だが、次の瞬間、そっと肩に置かれた一つの手が、その狂乱の嵐を静かに押しとどめた。
牙だった。
彼の表情に怒りも、焦りもない。
あるのは、ただ静かで底知れぬ落ち着き。
「動くな。」
「すべて、俺が片付けた。」
彼の声には一切の揺らぎがなく、まるで盤石のごとき安定感があった。
その言葉に、ボーディの胸が強く締めつけられる。
「……だが——」
握り締めた拳が震える。
怒りはまだ消えず、喉元で言葉が詰まる。
牙はじっとボーディの目を見つめた。
その声は低く、だが、決して覆せぬ意志を帯びていた。
「俺を信じろ。」
たった三つの言葉。
だが、それは山のように揺るぎない重さを持っていた。
ボーディは奥歯を噛み締め、深く息を吸い込む。
そして、ゆっくりと両手を頭の上に掲げた。
静かに、抵抗をやめた。
四人のうち、三人が冷たい手錠に繋がれ、
その無機質な金属が夜の闇の中で鈍い光を放っていた。
こうして、破滅の一歩手前にあった危機は、ついに終焉を迎えた——




