第40話 05 “軍団の将軍”
彼の速さは、誰もが気づけぬほどだった。
老人は、静かに溜め息をつく。
「若者というのは、どうしてこうも無鉄砲なのかね。」
「まったく……あと少し遅れていたら、大変なことになっていたよ。」
その言葉とともに――
「寒波。」
氷のように冷たい光が解き放たれ、戦場全体が凍結していく!
「姉さん! 気をつけろ!!」
牙が叫ぶ。しかし――
遅かった。
――ほんの一瞬の出来事だった。
牙の目の前で、彼の姉は氷の彫像へと変わっていた。
驚愕の表情を浮かべたまま、彼女の指先は魔法を発動しようとした形で静止している。しかし、すでにその身は完全に凍り付き、透き通るような氷の光が冷たく輝いていた。
「安心しろ。彼女はまだ死んではいない。」
老人は穏やかに微笑んだ。
「私はな……人を殺すのが好きではないのだよ。」
「だが――」
その言葉が終わる前に、牙とボーディは怒り狂い、躊躇うことなく魔力を解放した!
「グルルルル……!!」
二匹の巨大な蛇が天を舞い、鋭い牙を剥き出しにして老人へと襲いかかる!
しかし、老人はただ微笑み、静かに息を吐いた。
「だから言っただろう……若者は、せっかちだと。」
「将軍、手を貸してくれるかね?」
その言葉と同時に――
重々しい足音が響き渡る。
夜の闇を裂くように、鎧をまとった巨大な男が前へと進み出た。
腰には大剣を携え、その堂々たる風格だけで、すべてを圧倒するほどの存在感を放っていた。
それは、幾多の戦場を駆け抜けた本物の戦士――
「……任せろ。」
彼は静かに剣を抜いた。
漆黒の刃には精緻な紋様が刻まれ、そこから放たれる光は、まるで極光のように美しかった。
その輝きが天を舞い、戦場を照らす。
彼は一歩踏み出し、剣を振り上げる。
「極光――斬。」
大剣が夜空を切り裂いた。
眩い光が奔り、毒霧と強酸をすべて消し去った。
それはまるで、幻想のような一閃だった。
牙とボーディの姿は、猛る嵐に引き裂かれた枯葉のように、無情にも吹き飛ばされた!
彼らの身体は空中で激しく回転し、砕け散った岩にぶつかりながら、鮮血が荒廃した大地に飛び散る。舞い上がる塵が戦場を覆い尽くし、大気そのものが震えているようだった。しかし、どれほどの衝撃を受けようとも、牙とボーディは落下の瞬間、戦士の本能で身体を強引に支え、ふらつきながらも立ち上がった!
牙の頬には一筋の血が滲んでいたが、彼は傷など気にも留めなかった。鋭い眼光で戦況を見渡した瞬間、心臓が締め付けられるような感覚に襲われる。
氷結の魔法……極光のような剣技……
終わった。
指先がわずかに震え、胸の奥が鈍く痛む。
最悪の事態が、ついに訪れた。
あの人——ずっと彼らを庇護してくれていた姉貴が、今や透き通るような氷の彫像と化していた。術を発動しようとしたその姿勢のまま、彼女は完全に凍りついていた。もはや動くことも、声を発することもできない。それどころか、微かに立ち上るはずの白い息さえも、その氷の檻に閉じ込められていた。
牙は、もう迷っている時間はないと悟った。
彼は素早く胸元に手を突っ込み、幽玄な青い光を放つ時石を強く握りしめる。その滑らかな表面には、まるで星々が流れるかのような輝きが宿っていた。躊躇うことなく、それをボーディの掌へと押し込む。
「持っていけ、ボーディ。」




