第40話 04 氷結
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「本物の石は、ここにある。」
獠牙は口元に冷笑を浮かべながら、手に持った石を軽く揺らした。その瞳には、隠しようのない嘲笑が宿っていた。
「お前たちは最初、俺の毒の分身を攻撃し、その体に石がないと見て、本体にもないと思ったのだろう? それが大きな間違いだったのさ。」
彼の声はあまりにも軽く、まるで取るに足らない話でもしているかのようだった。
しかし、その言葉が落ちると同時に――
崩壊寸前の山が、鈍い轟音を響かせた。耳をつんざく振動が空気を伝わり、まるで地の底から巨大な怪物が目を覚ましたかのようだった。
突如として――
紫と桃色が入り混じった巨大な蛇が、崩れ落ちる岩の隙間から天へと飛び出した!
その巨体は戦場の光を覆い尽くし、冷酷な蛇の瞳には血に飢えたような光が宿っていた。圧倒的な威圧感を放ちながら、空を旋回し、一気に地上へと急降下する。
「ドォン!!」
大地が震え、蛇は地面に激突。砂塵が舞い上がり、視界を奪う中、その中央には――
全身を強酸に覆われたボーディが立っていた!
彼の皮膚は毒に侵され焦げ付き、傷口からは未だに煙が立ち上っていた。だが、それでもなお、彼は揺らぐことなく立ち尽くし、まるで動かぬ鉄塔のようだった。
「貴様……今ここで、必ず殺してやる」
怒りに燃えるボーディは、低く唸りながらザックを睨みつけた。
ザックは何か言おうとしたが、喉の奥が熱くなるのを感じた。
「っ……!」
激痛が脳を貫く。次の瞬間、血を吐き出し、そのまま崩れ落ちた。
意識は暗闇の中へと沈み――
「ザック! ザック!!」
エイトが必死に呼びかけるも、彼はすでに意識を失っていた。
敵は三人。
ナイトたち四人の目の前に、静かに立ちはだかる。
空気が――凍りついたかのように重くなる。
「……ナイト、エイト。今から、私は自爆する。」
静寂を破るように、サンディが静かに告げた。
彼女の指先はわずかに震えながらも、拳を固く握りしめる。体内に渦巻く魔力が激しく燃え上がり、熱を帯びた空気が周囲に波打つ。
その体温は急激に上昇し、まるで今にも噴火する火山のようだった。
「大丈夫、心配しないで。爆発の瞬間、転送魔法が発動して、お前たち三人は元の場所へ戻れる。」
サンディは、穏やかに微笑んだ。その目には、懐かしさと別れの寂しさが滲んでいた。
「一緒にここまで来れて、本当に楽しかったよ……。」
「おい! 馬鹿な真似はやめろ!!」
ナイトの瞳が大きく見開かれる。彼の顔には驚愕と怒りが浮かび、その叫びは戦場に響き渡った。
だが、サンディは静かに目を閉じ、最後の微笑みを浮かべた。
「じゃあね。」
その瞬間――
「氷結。」
低く、しかし響き渡る声が、虚空から降り注いだ。
次の瞬間、冷気が戦場を襲う!
空気が凍りつき、温度は一気に氷点下まで急落。凄まじい寒気がすべての熱を飲み込んでいく――
そして、一人の老人が、誰にも気づかれることなく現れた。
彼は背が低く、白い髪と髭をたなびかせ、深い色の長袍をまとっていた。その瞳は静かに輝き、どこか憂いを帯びている。




