第40話 03 希望から絶望へ
山全体が耳をつんざくような轟音を響かせ、大地の鼓動が狂ったように脈打ち、空全体が微かに震えていた。遠くで戦っていた者たちは次々と動きを止め、驚愕の表情で振り返った。何が起こったのか、誰も理解できていなかった。舞い上がる砂塵が空気を満たし、まるですべてを呑み込む災厄の前兆のようだった。
その一瞬、サンディの視線が一瞬の隙を見せた。
——その僅かな油断が、命取りとなる。
女の目が鋭く光り、次の瞬間、彼女は素早く間合いを詰めた。しなやかでありながら不気味な力を秘めた手のひらが、迷いなくサンディの肩へと押し当てられる。
「くそっ!」
サンディはすぐさま気づき、全力で振り払おうとする。しかし、もう遅い——冷たい灰色が肩から広がり、彼の体の半分が瞬く間に石へと変わっていく。
だが、サンディもただやられるわけではなかった。
「どけぇっ!」
灼熱の火球が破壊の炎を纏い、女に向かって轟然と放たれた。空気が焼けるような焦げ臭い匂いが漂う。しかし、女は微かに笑みを浮かべるだけで、一歩も動かなかった。
——火球が彼女に届く寸前、突如としてその動きが完全に止まった。
そして、次の瞬間、火球の全てが石へと変わり、無力に地面へと落ちていった。
「ぐっ……!」
サンディが逃げようとしたその時、不意に蹴りが彼の腹部にめり込み、吹き飛ばされた。まるで凧の糸が切れたように宙を舞い、激しく地面へと叩きつけられる。全身に走る衝撃と痛みが意識をかき消しそうになる。
そして——
彼女の石化した指先が、ものすごい速度で落下してくる。
——触れられたら終わりだ。
完全に石へと変えられ、永遠に動けなくなる。
その時——
「スピードアップ!!」
雷鳴のような声が響き渡った。
——ザックだ!
彼の魔力が暴風のごとく炸裂し、残されたすべてのエネルギーを爆発的な速度に変換する。
未だかつてない猛スピードで、彼は走った——
稲妻のような瞬間。
女の指が、サンディの胸元に触れようとしていた。
石化が、呪いのように広がる——
しかし、次の瞬間、猛獣のごとく駆け寄ったザックがサンディを強引に引き寄せ、その場から奪い去った!
二人は転がるように地面に倒れ込み、ザックはすぐにサンディの状態を確認する。
——彼の体の半分はすでに石化し、一方の脚も完全に動かなくなっていた。
「ちくしょう……!」
ザックは歯を食いしばりながらも、ためらうことなく立ち上がる、目は遠くのナイトを捉え、彼は再び駆け出した!
「サンディ!転送魔法を起動しろ!石は手に入れた!」
戦場に、ザックの叫びが響き渡る。
サンディは驚いた表情を見せたが、すぐに覚悟を決め、痛みに耐えながら震える手で印を結び始めた。
——眩い光が空間に広がり、魔法陣の紋様が徐々に浮かび上がる。
交差する光の軌跡は、まるで煌めく星々のようだった。
ナイトとアイトも瞬時に状況を把握し、両陣営のメンバーが一斉に魔法陣へと走り出す。
——崩壊する大地を脱出するために。
しかし、その時——
まさに逃げ切ろうとした瞬間だった。
突如として、異様な力が爆発する。
「ぐっ——!?」
全員の動きが一瞬にして止まる。
まるで見えない鎖に絡め取られたかのように、体が硬直し、その場に叩きつけられた。
——石化している!?
「フフ……この程度の小細工で逃げようなんて、随分と甘いわね?」
軽やかで冷酷な声が響く。
その声には、余裕と嘲笑が混じっていた。
女は紫色の魔力の粒子を指先に纏いながら、にやりと笑う。
「でもねぇ……まさかボーディが負けるなんて。あのバカな弟、本当に頭が悪いわ。」
ザックの目が怒りに燃え上がる。
拳を固く握りしめ、歯を食いしばって唸った。
「クソッ……あと一歩だったのに!!」
「ん?」
女はわざとらしく首をかしげ、クスクスと笑う。
「いいえ、違うわよ。実際は……あと二歩足りなかったの。」
そう言うと、彼女はゆっくりと手を伸ばし、ザックの手から『彼らが命がけで手に入れた石』を、まるでゴミでも拾うように奪い取った。
「パチン。」
指先で、軽く力を込める。
——次の瞬間。
その石は、もろく砕け散り、風に舞う粉塵となった。
ザックの瞳が、絶望に染まる。
——この石は……偽物だったのか!?




