第40話 02 命を懸けた勝負を始めよう
「……っ!?!」
冷たい鎖が肌に食い込み、じわじわと焼けるような痛みが広がる。
――強酸だ!
青白く発光する鎖は、肌に触れた瞬間から溶解を始めていた。逃れる間もなく、ザックの体は鎖に引きずられ――ボーディの眼前へと引き戻された。
「ドガァッ!!」
強烈な衝撃。ボーディの拳がザックの顔面を撃ち抜き、彼の体は弾丸のように吹き飛ばされた。
鮮血が宙に散る。しかし、ボーディの猛攻は終わらない。追撃のため、まるで獣のように駆け出した。
次の拳が、鋭い風切り音とともに迫る――
「ゴッ……!」
ボーディの拳がザックの顎を直撃した。その威力は、まさに先ほどザックがバウディに浴びせた攻撃そのもの。
ザックの体は再び宙へと投げ出される。意識が揺らぎ、視界がぐるぐると回転した。
そして、追い討ちをかけるように、ボーディが跳び上がった。
両腕を振りかざし、空中で連続攻撃を叩き込む。拳が、鋭い刃のように、確実にザックの肉をえぐる。
鈍い衝撃音が鳴り響くたび、ザックの骨が軋み、ひび割れる感触が走る。
最後の一撃が、すでに傷ついた胸部へと突き刺さった。
「……っぐあ……!」
激痛が炸裂する。意識が真っ白になり、ザックの体は糸の切れた人形のように地面へと落下した。
しかし、まだ終わらない。
ボーディの巨大な手が、ザックの首を鷲掴みにする。瞬く間に、彼の体は地面から持ち上げられた。
ぶらりと垂れ下がる両脚。呼吸が詰まり、視界がじわじわと暗くなる。
そして――ボーディの背後で、強酸の波が蠢いていた。
じくじくと湧き出る腐食性の液体。その熱気が、すでにザックの皮膚を焦がし始めている。
まるで、次の瞬間にはすべてを溶かし尽くすかのように――。
ザックはゆっくりと左手を持ち上げ、破れた袖の隙間から奇妙な形をした信号銃を引き抜いた。冷たい金属の質感が指先に伝わり、薄暗い洞窟の中で微かな光を反射する。彼の動作には一切の焦りがなく、まるで目の前の危機など取るに足らない出来事であるかのようだった。
「ハハハハハッ!」
それを見たボーディは、狂気じみた笑い声を響かせた。彼の目には嘲笑と侮蔑の色がありありと浮かんでいる。
「お前、そんなオモチャみたいなもので俺を倒せるとでも思っているのか?ああ、本当に失望したぞ、ザック。」
しかし、ザックの表情は微動だにせず、氷のように冷たいままだった。それどころか、唇の端にはわずかな笑みすら浮かんでいる。
「倒す……?いや、これはお前を倒すためのものじゃない。」
そう言いながら、ザックはゆっくりと視線を上げ、狂気に満ちたバウディの瞳を真っ直ぐに捉えた。そして、静かに告げる。
「これは、お前の“要素”を破壊するためのものだ。」
「……要素?」
ボーディは眉をひそめ、しばし沈黙する。しかし、それもすぐに不遜な笑みへと変わった。
「フン、そんな小賢しい言い回しで俺を誤魔化せると思うなよ。どうせまた時間稼ぎだろう?」
「お前は気づいていないのか?なぜ俺が戦いの最初から逃げ回っていたのか。」
ザックの声は低く、しかし確かな重みを持って洞窟内に響き渡った。
「なぜ、俺が何度も自分の幻影を作り出し、お前に攻撃させたのか?」
ボーディの瞳がわずかに揺らぐ。何かが違う――直感的にそう感じたのかもしれない。しかし、彼はすぐにその疑念を振り払い、鼻で笑った。
「だからどうした?逃げ回ろうが、幻を使おうが、結局は無駄だ!貴様はこの俺に勝つことはできん!」
彼の声は興奮で震えていた。まるで自分の勝利を確信し、興奮が抑えきれなくなっているかのようだ。
「さあ、さっさとやれ!貴様の最後の切り札とやらを見せてみろ!それとも、遺言でも残すか?ハハハハッ!」




