第40話 01 「臨死体験」
ザックは砕けた石柱の中から、ゆっくりと身を起こした。衣服の裾から砂塵と小石がさらさらと滑り落ち、微かな光が彼の歪んだ表情を照らし出す。
彼ははっきりと感じていた――数本の骨が折れている。まるで鈍い刃物が体の中を引き裂くような痛みが走り、少しでも動けば鋭い激痛が全身を貫いた。
「クソッ……このままじゃ動きが鈍る……」
さらに悪いことに、先ほど吐き出した鮮血が決定的なサインだった。時間がもう残されていないことを、嫌でも思い知らされる。あの化け物を倒せなければ、石を奪い返すどころか、ここから逃げ出すことすら絶望的だ。
視線の先、ボーディはまるで戦場にそびえ立つ機械兵器のように、微動だにせず立っていた。疲れの色など微塵もない。
――異常すぎる。あれほどの広範囲魔法を連発しながら、まるで魔力の消耗を感じさせないとは……。
しかし、ザックは薄く笑みを浮かべた。計画は、ほぼ成功している。あとは――最後の一点を試すだけだ。
ザックが素早く思考を巡らせる刹那、ボーディが地を蹴った。
猛獣が獲物に飛びかかるかのような豪快な跳躍。巨大な影がザックに覆いかぶさる。次の瞬間には、もう眼前に迫っていた。
風を裂く唸りとともに、ボーディの拳が凄まじい勢いでザックの顔面を狙う。しかし――その瞬間、地面に転がっていた小さな石ころが突然膨れ上がった。まるで魔力を帯びたかのように、瞬時に巨大な岩へと変貌し、ボーディの顎を激しく打ち上げる。
「ゴッ……!」
轟音とともに、ボーディの巨体が宙へと吹き飛び、天井に激突した。岩片が降り注ぐ中、ザックは荒い息をつきながら様子をうかがう。
しかし――ボーディは何事もなかったかのように首を軽く回し、不敵な笑みを浮かべていた。
「ほう……新しい技か。石に印を刻んで、好きな時に操れるようにした……か?」
バウディの唇が皮肉げに歪む。その目には冷え切った嘲笑が宿っていた。
「だが、それがどうした? お前の攻撃は、これまで一度たりとも俺に致命傷を与えていない。だが、俺の拳は――」
ボーディが地を踏みしめる。
「お前を死の淵に追いやるたびに、確実に効いているはずだ。」
言葉が終わるより早く、ボーディの体がまっすぐ落下した。
まるでロケット弾のように、一直線にザックへと急降下する。爆発的な速度により、空気が歪み、轟音が洞窟にこだまする。
ザックは歯を食いしばり、地面を転がるように回避した――が、転がった瞬間、胸に走る鋭い痛みに息が詰まる。
「ぐっ……!」
内臓が焼けるような感覚。呼吸が乱れ、視界が一瞬揺らぐ。
だが、立ち止まる暇はない。必死に体勢を整えた瞬間、再びボーディの拳が襲いかかる。
回避するしかない。ザックは力を振り絞り、全身をひねって飛び退いた――
だが、その瞬間、腕に何かが絡みついた。




