第39話 17 鋭く覚醒させる痛み
「奈特!」エイトが必死に立ち上がろうとするが、体は完全に力を失い、まったく動かなかった。
そして少し離れたところでは、サンディの状況がさらに悲惨だった。彼女の瞳は虚ろで、完全に意識が薄れ、牙の毒気によって精神を支配されていた。まるで人形のように無表情で、そこに生気は微塵も感じられなかった。
「獠牙、あんた、もう“王のモード”を発動させたのね。」不意に、少し離れた場所から甘美で妖艶な声が響いた。紫色の長いドレスを纏った女が、巨木にもたれかかり、唇には妖しい微笑みを浮かべていた。
「姉さん、もういいだろ?遊びは終わりだ。」牙が彼女を一瞥し、少し苛立たしげに言った。
「せっかく面白い獲物が見つかったのにね。」女は唇を尖らせ、名残惜しそうに呟いたが、それでもしぶしぶ頷いた。「本当に……今すぐこの美しい子たちを持ち帰りたいけど、まあ、次の機会もあるしね。」
彼女はゆっくりとサンディ近づき、目の奥に怪しげな光を宿し、優しくも残酷な声で囁いた。
「でも、やっぱり……このまま石像にしてあげるわ。ゆっくりと……君が芸術品へと変わるその瞬間を、私、じっくり楽しみたいの。」
彼女の声は蛇の舌のように桑迪の耳元を舐め、魂を吸い取るかのような甘美な誘惑に満ちていた。サンディの体が小刻みに震えるが、意識は徐々に薄れ、もう抵抗する力は残っていなかった。
空気は重く、不吉な気配が辺りを包み込む。夕陽の残光が森の縁を照らし、牙と女の影を長く引き伸ばし、異様に歪めていた。まるで闇がゆっくりと大地を飲み込んでいくかのように。絶望の影がエイト、ナイト、サンディを覆い尽くし、まるで彼らの命が次の瞬間にも、この二人の悪魔に奪われるかのように感じられた。
まさにこの危機一髪の瞬間、ザック、サンディ、ナイト、そしてエイトの四人は、ほぼ同時に胸の奥から突き上げるような激痛を感じた。それはまるで、見えない手が心臓を容赦なく握り潰しているかのようだった。一瞬、呼吸が完全に止まり、空気が粘りつくように重くなった。四人の瞳には、驚愕と苦痛が色濃く映っていた。
次の瞬間、鮮血が彼らの口から激しく噴き出し、大地を赤く染め上げた。その激痛の中、サンディは突然意識を取り戻し、瞳に鋭い焦点が宿る。彼女の吐き出した血が弧を描き、あの妖艶な女の華やかなローブに飛び散り、鮮やかな赤い染みを残した。
「……ふざけんな!」女は眉をひそめ、怒りと嫌悪を滲ませた低い声で呟いた。血のついたドレスを見下ろし、彼女の表情は一気に険悪なものへと変わる。「これ、私のお気に入りなのに……こんな血のシミ、落とすのにどれだけかかると思ってるの?」苛立たしげに手で拭おうとするが、血は簡単には消えない。
しかし、彼女が再び顔を上げたその瞬間、冷たい魔法の杖がすでに彼女の額にぴたりと突き付けられていた。
「動かないで。」サンディの声は低く、冷徹で、否応の余地を許さない威圧感に満ちていた。「目を開けないで。話しかけないで。少しでも妙な動きをしたら、ためらいなくお前を灰にする。」
サンディの手はしっかりと魔法杖を握り、その杖の先端からは不吉な魔力が脈打っていた。もう片方の腕は、すでに石化しており、重い岩のように力なく垂れ下がっている。それでも、彼女の佇まいはすでにさっきまでとは別人のように一変していた。
唇の端にこびりついた血はまだ拭われていない。赤い筋が顎を伝い、ぽたりと地面に落ちる。だが、その瞳にはもはや怯えや混乱は微塵もなく、そこにあるのは骨の髄まで染み付いた冷静さと決意。まるで、長き眠りから目覚めた猛獣が、追い詰められた中で真の力を解放しようとしているかのようだった。
空気は息が詰まるほどの殺気で満ちていた。それは、今にも振り下ろされる刃のように鋭く、重く、場の全員の頭上にのしかかっていた。戦場はまるで凍りついたかのように静まり返り、互いの荒い呼吸音だけが響く。
この瞬間、サンディはもはや操られるだけの傀儡ではなかった。彼女は命を懸けて戦う覚悟を決めた、真の魔法使いだった。




