第39話 16 「よく見ておけ…これが“王”とお前の実力の差だ」
空気にはほのかに血の匂いが漂い、紫の毒気の腐食するような瘴気が混じり、息をするだけで肺が焼けるようだった。牙の瞳には楽しげな光が宿り、彼はもう一方の手をゆっくりとポケットから取り出した。その指先にはまだ微かに魔力の波動が残っていた。
「この毒気は、吸収した魔力を力に変え、逆にその力を跳ね返すことさえできるんだよ。」牙はまるで些細な手品でも披露するかのように淡々と呟いた。「それが、さっき君が食らったものさ……」
エイトの瞳が鋭く光った。これ以上の無駄話に付き合うつもりはない。彼は豹のように素早く獠牙に肉薄し、武器を振り下ろした!しかし、その攻撃はまるで目に見えない壁に阻まれたかのように、簡単に防がれた。刃先は僅かに届かず、獠牙の体にはかすりもしなかった。
「まあまあ、そんなに焦るなよ。俺の話はまだ終わってないんだからさ。」牙は口元に嘲るような笑みを浮かべ、瞳には残酷な光が宿っていた。「面白いのはさ、君たちが必死になっても、まだ本気を出していない俺に指一本触れられないことなんだ。この滑稽さが、たまらなく楽しい。でもなぁ……ゴキブリみたいにしぶとく生き延びられるのは、少し鬱陶しいな。」
彼の声が冷たく響き終わると同時に、牙の外見が変貌し始めた。頭上には紫色の毒気でできた王冠がゆっくりと浮かび上がり、その上には不気味な蛇がとぐろを巻き、舌をチロチロと出していた。先ほどまで黒髪に隠されていた瞳がようやく露わになり、淡い紫の瞳孔、なびく短髪、鋭い鼻筋——それは元々清楚な美しさを持つ顔だったが、毒気が纏わりついたことで妖艶で危険な魅力を放っていた。
「さあ、王の力ってやつを見せてやるよ。」牙の声は低く、蛇の囁きのように冷たく、ぞくりとするほど陰惨だった。
紫の毒気がまるで生きているかのように素早くエイトの体を絡め取り、まるで鎖のように彼を縛り上げた。身動きひとつ取れない。牙の指先は濃密な毒霧に覆われ、そのまま手を振り上げた。爪の先端から滲み出る紫の毒が、ひと突きでエイトの上半身を貫き、刃のように切り裂いた。血が飛沫を上げ、獠牙は無造作に爪を引き抜いた。艾特はその場に膝をつき、顔面蒼白、口元から血を垂らしながら地面に崩れ落ちた。
「エイト!」隣にいた奈特が、全身の痛みに耐えながら必死に立ち上がった。彼の目には怒りと悔しさが滲んでいた。大剣を引きずるように持ち上げ、最後の力を振り絞って牙に突進する。しかし、牙はただ軽く指を弾いただけだった。
「チッ。」
地面から突如、紫色の毒気が噴き出し、鋸歯状の螺旋風となって奈特に襲い掛かる!
「ガンッ!」ナイトはなんとか大剣で防御するが、獠牙がわずかに力を込めると、毒気が大剣の先端を一瞬で削り取り、破片が回転しながら飛び散った。そしてそのまま奈特の胸を直撃した。鈍い音が響き、奈特は地面に叩きつけられ、血を吐きながらその場に崩れ落ちた。




