第39話 15 月華に散る毒刃
エイトの剣先は、夜空に浮かぶ満月のように、空気の中に銀色の弧を描いた。
彼女の剣が巨大な毒気の大剣とぶつかる瞬間、まるで時間が止まったかのようだった。周囲の空気が微かに震え、白い微粒子が静かに舞い上がる。まるで無数の星々が夜空に煌めいているかのように、あるいは透き通った月が彼女を包み込んでいるようだった。
刃と刃が交わる一刹那、静寂が砕け散る。何か目に見えぬ力が引き金となり、周囲の塵が爆発したかのように舞い上がった。空間全体が激しく震え、衝撃波が交点から四方八方へと吹き荒れる。巨大な蛇の実体はその力に耐えきれず、ねじれながら崩れ去り、紫色の毒霧へと変わって、狂ったように月光の下で渦巻いていた。その光景は妖艶で、そして致命的だった。
エイトは塵埃の中心に佇んでいた。月光が彼女の横顔を照らし、冷たくも力強い美しさを醸し出していた。白銀色の粒子が彼女の周囲を漂い、まるで雪のように舞い散る。黒髪が疾風に揺れ、白と黒が見事に溶け合い、まさに月下で踊る女神のようだった。彼女の一歩ごとに星を踏み砕き、その一振りごとに夜空を震わせるかのように。
遠くに立つ牙は、一瞬だけ動揺を見せた。彼は、今まさに目の前で何が起きたのか、まったく理解できていなかった。
「おかしい……元素魔力の波動がない……」
獠牙の目が鋭く細められたが、彼はすぐに冷静さを取り戻した。紫の毒霧の中、鋭い視線でエイトを見据える。
「何かがおかしい。俺の毒霧は、どんな物理攻撃でも通用しないはずだ……。なのに、さっきの一撃は俺の気化した蛇を完全に打ち砕いた……。あの剣技、妙だ……」
牙は思案に沈んだが、瞳の奥には危険な光がちらついていた。
だが、考える隙も与えず、空気は再び濃厚な毒気に包まれた。牙が低く冷笑する。紫色の霧が高速で凝縮し、瞬く間に数十本もの妖しい紫の毒刃へと姿を変え、エイトの四方を取り囲んだ。それらは鋭利な光を放ちながら、まるで死神の鎌のように空中を漂っていた。
「さて……今度はどうする?」
獠牙の声は冷酷で、そして狡猾だった。「今度こそ、逃がさない……」
毒刃が一斉に放たれる。まるで空を切り裂く紫の稲妻。恐るべき速さで迫り、たとえ一本でもかすれば、致命的な毒が全身を貫くことは避けられない。
しかし、四方八方からの逃げ場のない殺意に囲まれても、エイトの眼差しは静かで、湖のように澄んでいた。彼女はそっと息を吸い、双剣を静かに回転させる。その動きはまるで幻影のようで、二本の剣が並行に揃い、一本の銀の線を描いた。
「半月。」
エイトは静かにそう呟いた。
刹那、銀色の粒子が再び集まり、淡い弧を描く光の環となった。それはまるで夜空に浮かぶ、欠けてなお鋭い半月のようだった。紫色の毒刃がエイトに触れようとした瞬間、見えない力がそれらを弾き飛ばし、毒刃は空中で解体され、ただの毒気となって静かに霧散した。
牙の瞳がわずかに収縮した。その瞬間、彼はようやく理解した。
「分かった……」
牙はエイトを睨みつけ、声には冷たい驚愕が混じっていた。
「お前の剣技……それは、何らかの方法で自分の周囲に銀色の粒子を作り出しているんだな。この粒子は爆発を引き起こし、しかもその衝撃波には魔法属性のダメージがある……」
彼は舌なめずりをし、目には貪欲と警戒の光が交錯した。
「しかも……それだけじゃない。この粒子の力は、まだまだ底が知れない……」
毒霧が再びうごめく。牙は感じていた。
この戦いは、まだ終わりではない。
今、夜空の下で繰り広げられるのは、ただの剣戟ではない。
それは、月光のごとく美しく、同時に死を孕んだ力のぶつかり合いだった。




