第39話 11 幻影の蛇舞
漆黒の夜の下、戦いは続いていた。毒々しい瘴気があたりに立ち込め、息苦しささえ覚える。
「ったく、うぜぇな……! 大事なところで邪魔しやがって……」
牙は苛立たしげに唸り、金色の縦長の瞳に嗜虐的な光を宿らせた。
彼は勢いよく振り返り、隣に立つ女を睨みつける。
「おい、姐さん、さっさと手を貸せよ! わかってるんだろ? お前、俺にあの女を攻撃させたくねぇんだろ?」
女は牙の言葉にクスリと笑い、瞳の奥に妖艶な色を浮かべた。
「あら、どうしてそんなに賢いの? ふふ、そうなのよねぇ……。さっきから言おうと思ってたんだけど……」
彼女はそっと舌なめずりをし、目を輝かせる。
「あの魔法使いの女、私に譲ってくれない? 本当にねぇ、私の好みにドンピシャなのよ! ふふ……あんな素敵な子、じっくり、ゆっくり、遊ばなきゃもったいないわ。」
牙は肩をすくめ、嘲笑を浮かべる。
「ったく……好きにしろよ。でも、その前に手を貸せ。そしたら、あの女をどうしようが、お前の勝手だ。」
ドォォォン!!
巨蛇の一撃が再び襲いかかる。鋭い尾がまるで鉄槌のように振り下ろされ、立ち上がったばかりのナイトを直撃せんとする。
ナイトはすぐさま防御の姿勢をとる。だが——
「っ!?」
蛇の頭が突如として軌道を変え、攻撃の矛先が——
サンディへと向かった!!
「くそっ!」
ナイトは目を見開き、すぐに助けに入ろうとする——が、
——体が動かない!?
それはナイトだけではなかった。
エイトもまた、まるで見えない鎖に縛られたように、一歩も動けなくなっていた。
「なっ……?!」
サンディの瞳が揺れる。彼は目前に迫る蛇の尾をはっきりと視認していた——だが、
反応できない。
魔法の詠唱すら、脳内で形を成す前に途切れてしまう。
次の瞬間——
「ガッ……!!」
蛇尾がサンディの体を強かに打ちつけ、彼の体は弾き飛ばされる。まるで紙切れのように宙を舞い、
ゴシャァッ!!
数メートル先の樹木に激突した。
「ぐっ……!!」
激痛が全身を駆け巡る。喉の奥に、鉄のような血の味が広がった。
——その刹那、ナイトとエイトの拘束が解ける。
だが、彼らがサンディの元へ駆け寄ろうとした時——
その道を、蛇が塞いだ。
「……っ!」
サンディは朦朧とした意識を振り払い、必死に立ち上がる。全身に痛みが走るが、今は耐えるしかない。
「……急がないと……」
彼は小さく呟く。
ナイトとエイトは物理攻撃主体の戦士だ。つまり、彼らの攻撃ではこの蛇に致命傷を与えられない。
自分が魔法で援護しなければ——彼らは時間を稼がれるだけだ!
——そう思った瞬間、
「ふふっ……そんなに他人の心配してる暇があるなら、自分のことを気にしたらどう?」
耳元に、甘く妖しい声が響いた。




