第39話 05 新たな武器、蒼……蒼蠅叩き!?
牙の口元には、獰猛な笑みが浮かんでいた。指をわずかに動かすと、紫色の毒霧が渦を巻き、一瞬にして巨大な蛇へと姿を変えた。
大蛇は血に飢えたように大きく口を開け、鋭く光る牙をむき出しにする。その牙が紫の霧の中で鈍く輝き、獲物を捕らえるべく唸りを上げながら三人へと襲いかかった。
その瞳には、一切の情けもなく、ただ冷酷な光だけが宿っていた。
「逃げ場などない」
そう言わんばかりに。
——その頃、洞窟内では——
ザックは荒い息を吐きながら、痛む体を引きずるようにしてなんとか立ち上がった。
全身に鈍い痛みが広がり、とりわけ肋骨のあたりには鋭い衝撃が残っている。だが、ここで倒れるわけにはいかない。
「……もし魔力強化による防御力の向上がなかったら、今ので立ち上がることすらできなかったかもしれないな……」
ザックは鋭く目を細め、暗闇の中を見据えた。
やはり、こいつは普通の人間のように目に頼ってはいない——そう確信できる。
ザックの脳裏に、今までの戦いの記憶が駆け巡る。
毒霧の中でも、奴はまるで何も見えているかのように的確に動いていた。
つまり、視覚ではなく、まるで蛇のように別の感覚を使って周囲を捉えているのだ。
だからこそ、以前の戦闘で胡椒や小麦粉が奴に効果を発揮した。
——そうか、全身が極端に敏感なんだ!
確信を得た瞬間、ザックの表情はより研ぎ澄まされたものへと変わる。
彼は手にしていた武器を握り直す。それは……
まさかのハエ叩きだった。
その時——
闇の中から、素早く近づいてくる足音!
ザックの目が鋭く光る。
「奴の正確な位置を把握できないなら——ならば!」
「周囲のすべてを、一掃すればいい!!」
次の瞬間、彼はハエ叩きを勢いよく振りかざし、手首を返して回転させる!
すると、それはまるでヘリコプターのプロペラのように高速回転し始めた!
空気が唸りを上げて渦を巻き、強烈な風圧を生み出す。回転速度はどんどん増し、まるで絶対に近づけない防御の壁が作られたかのようだった。
そして——
「デカくなれ!!」
ザックの叫びと同時に、魔力が爆発的に放たれる!
普通のサイズだったハエ叩きが、一瞬で巨大化し、約3メートルもの大きさへと変貌を遂げた!
——これなら奴がどこにいても関係ない!——
無差別の高速回転攻撃。さらに、突然の巨大化で攻撃範囲はさらに拡大。
この瞬間、ザックの周囲に隙など存在しなかった。
「バチン!!!」
鋭い打撃音が響き渡る。
——手応えあり!
「……後ろか!」
ザックは確信した。
強烈な衝撃により、背後から襲いかかろうとしたバウディが勢いよく吹き飛ばされ、洞窟の岩壁に激突する。
鈍い音が響き、石の破片がパラパラと落ちていく。闇の中、短い苦痛の呻き声が漏れた。
それを聞いたザックは、わずかに微笑む。
だが、同時に彼の体もバランスを崩し、反動によって床に倒れ込んだ。
巨大なハエ叩きを支え続けることはできず、両手は微かに震えていた。




