第39話 04 目の前の景色、未来の光
漆黒が一瞬にして洞窟全体を呑み込み、まるで光さえも押し込められたかのように、冷たく重苦しい圧迫感が空気に満ちた。ザックの視界は完全に闇に沈み、四方は不気味なほどの静寂に包まれていた。自分の呼吸音すら鮮明に響くほどの暗闇の中で、彼は目を何度も瞬かせながら必死に適応しようとした。しかし、どれだけ目を凝らしても何も見えない。まるで底なしの深淵に落ちていくような感覚が彼を襲い、心臓が無秩序に高鳴る。額にはじんわりと冷たい汗が滲み、最も恐ろしいのは——彼が出口の位置すら把握できないことだった。
「どうやら、俺たち二人だけになったみたいだな。」
暗闇の中で、ボーディの声が静かに響いた。その口調にはわずかな嘲りと、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。
「お前……攻撃魔法は得意じゃないようだな。だが、まあ邪魔なのは変わりない。まずはお前を片付けてから、外の連中もまとめて始末してやるさ。」
その冷ややかで、どこか見下したような態度に、ザックは背筋が凍るような感覚を覚えた。彼は奥歯を噛み締めながら、必死に状況を整理する。
まずい……この状況は圧倒的に不利だ。
出口がどこにあるのかすら分からない以上、縮小魔法で塞がれた岩を小さくすることもできない。それに、この男は俺の魔法が補助系で、直接的な戦闘能力を持たないことを見抜いている……。もしナイトたちがすぐに来なければ、俺は間違いなく秒殺される……。
それに、最悪なのは——こいつがまだ隠された能力を持っている可能性があることだ……!
思考が巡る中、突如として右側から素早い足音が迫ってきた!
——ザックは反射的に防御しようとしたが、遅かった。
次の瞬間、圧倒的な力が彼の腹部を直撃した!
「ぐはっ……!」
彼の体はまるで切れた凧のように吹き飛ばされ、洞窟内の頑丈な石柱へと激突した。衝撃で石柱がひび割れ、「バキッ」という鈍い音が響き渡る。直後、洞窟全体がわずかに揺れ、小さな石片が天井からぱらぱらと降り注いだ。
ザックは苦しげに血を吐き、地面に倒れ込んだ。激痛が全身を貫き、一瞬で力が抜けていく。
——その頃、洞窟の外では。
牙は冷徹な視線でナイト、エイト、サンディを見下ろし、不気味な笑みを浮かべた。彼の周囲には異様な紫色の毒霧が渦巻いていた。その毒霧はやがて形を変え、巨大な蛇となって三人を取り囲み、まるで牢獄のように閉じ込めていく。
ナイト、エイト、サンディはそれぞれ戦闘態勢を整え、強烈な魔力を放ちながら、目の前の牙を鋭く睨みつけた。緊迫した空気が張り詰める中、獠牙は愉快そうに口を開いた。
「へえ……お前ら、魔力が急激に上がったみたいだな。」
彼はゆっくりと歩を進めながら、鋭い眼光を三人へ向ける。その瞳には、全てを見透かすような冷酷な光が宿っていた。
「魔力の上昇は、攻撃力、反応速度、敏捷性、防御力——全てを底上げする。だが、短時間でそこまで魔力を増幅できるとはな……。」
彼は目を細め、口角をわずかに持ち上げる。
「フフ……お前ら、何か"刺激的な手段"でも使ったんじゃないか?」
さらに一歩踏み込み、軽薄な口調で続けた。
「さて……時間制限はどれくらいだ? 10分か? それとも5分?」
その言葉とは裏腹に、彼の視線は氷のように冷たく、そこに宿る殺気が空気を凍りつかせた。
「——だが、それも関係ない。」
彼はゆっくりと手を上げた。
すると、周囲の毒霧がまるで意思を持っているかのように蠢き始め、まるで獲物を狩る獣のように三人を包囲していく。
牙の唇がゆっくりと歪む。
「どれだけ魔力を高めようと——お前たちでは、俺には到底及ばない。」




