第38話 最終章 すべてを賭けましょう
だが、計画が順調すぎる……順調すぎるのは、時に不吉な兆候でもある。
その瞬間、空気がピタリと凍りついた。
次の瞬間――凄まじい衝撃が炸裂した!
「ドォン――!!」
目に見えぬ巨大な力が戦場を蹂躙する。まるで巨大な獣の尾が薙ぎ払ったかのように、全員が吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられた。
砂塵が舞い上がり、木の葉が乱舞する。四つの影が無惨にも地面に転がり、鈍い衝突音が響く。
ザックの意識が揺らぎ、耳鳴りがこだまする。肺が焼けつくように痛み、内臓を殴りつけられたような衝撃が身体を貫く。それでも、彼は歯を食いしばりながら、必死に顔を上げた。
――何が起こった?
視線の先、そこにいるはずの獣牙は、悠然と森の奥から姿を現していた。
地面に倒れ伏していた"はず"の男が、まるで何事もなかったかのように、ゆっくりと歩み寄る。その唇には冷笑が浮かび、その瞳にはあざけりの光が宿っていた。
「……危なかったなぁ。いや、"俺"はとっくに囮だったんだけどな?」
牙の声は低く、冷たい。獲物を追い詰めた捕食者が、余裕たっぷりに語るような響きを持っていた。
「ただの毒ガスで作った分身に、ここまで全力で挑んでくれるとはね……」
ザックの瞳が驚愕に見開かれ、心臓が一瞬だけ凍りつく。
――罠だったのか!?
牙が手をゆっくりと掲げると、その掌に紫色の毒の靄が漂い始めた。死神がそっと手招きするかのような、不吉な光景だった。
「さて……最適なタイミングを逃した君たちは、これからどうするつもり?」
牙の唇が皮肉げに歪む。その表情には、勝者としての余裕しかない。
倒れ伏していたボーディもまた、ゆっくりと起き上がり、衣服についた埃を払った。その仕草には、もはや戦いに対する緊張感など微塵も感じられなかった。
――冷静を取り戻す時間、ゼロ秒。
牙は愉快そうに肩をすくめ、彼らを見下ろしながら告げる。
「"奪還ゲーム"は、もう終わりだよ?」
彼の目が鋭く光る。その瞳には、まるで捕食者が獲物を弄ぶかのような、冷たくも残忍な輝きが宿っていた。
「さあ、次はどうする?」




