第38話 18 三秒目
計画が順調すぎる……順調すぎて、かえって不安になる。
ザックの心臓が激しく鼓動する。鋭い視線を戦場に向け、状況を見極めた。敵は思惑通りに一時的な混乱に陥り、こちらの作戦は完璧に進行している。
幸い、今のところ予備の計画を発動する必要はなさそうだ。
ザックは深く息を吸い込み、呼吸を整えると、力強く地を蹴った。その動きに続くように、仲間たちも一斉に牙へと向かって疾走する。闇に包まれた森の景色が一瞬で流れ去り、耳元で風が唸る。踏みしめた落ち葉が宙に舞い、後方へと散っていく。
冷静を取り戻すまで、あと五秒。
牙の表情には、まだ驚愕の色が残っていた。事態を完全に理解しきる前に、エイトがまるで猛禽のように目標へと飛びかかる。彼の眼差しは鋭い刃のように細められ、獲物を捉えて離さない。
「魔法石はあいつが持ってる!」
エイトの声が戦場に響き渡る。その言葉はまるで戦いの鼓動を刻む太鼓の音のように、確かなリズムを持っていた。
同時に、ナイトの巨大な剣が高々と振り上げられる。刃の周囲の空気が激しく震え、稲妻のような鋭い閃光を放った。刃先は獣牙の顔面を正確に狙い撃ち、彼は防御に回らざるを得なくなる。交差した腕で受け止めるも、衝撃に耐えきれず、後方の木へと弾き飛ばされた。
冷静を取り戻すまで、あと三秒。
「行動開始!」
ザックの低い声が指示を下す。四人は一斉に女性へと突進した。
サンディが両手を素早く組み、掌に鮮やかな緑色の魔力が渦巻く。それに応じるかのように、周囲のツタが生き物のようにうねり、女性の手足へと絡みついた。この束縛は長くはもたない――せいぜい五秒もあれば引きちぎられてしまうだろう。だが、必要なのはほんの一瞬の隙だけ。
冷静を取り戻すまで、あと二秒。
ザックは右手を高く掲げ、光輝く魔法の波動をエイトへと送る。それは彼の速度をさらに加速させる魔法だ。
――エイト、行け!
エイトの身体が疾風と化し、雷鳴のごとき速さで目標へと迫る。その指先が、あと少しで女性の服に触れようとしていた――
冷静を取り戻すまで、あと一秒。
――勝利は目前!
ザックの鼓動が一気に跳ね上がる。全員が息を呑み、この瞬間に全てを懸けた。
今だ!
エイトの指先と魔法石の距離は、わずかに数センチ。あと少しで奪還できる!希望が見えた!




