第38話 17 黄金の7秒
ザックの目が細められ、闇の中で鋭い光が一瞬だけ閃いた。彼は手を上げ、仲間たちに向けて密かに合図を送る。それはまるで、声を発することなく**「時は来た」**と告げるようだった。
しかし、その瞬間——獠牙の視線が鋭く動いた。彼の口元に、嘲るような笑みが浮かぶ。
「やはり、新米だな。」
牙は低く呟くと、右手の人差し指をゆっくりと宙に滑らせた。その動きは一見すると何気ない仕草のように見えたが、それはまるで紫色の刃が空間を切り裂くかのようだった。
ザシュッ——!
次の瞬間、ザックたちが身を潜めていた大樹が**「バキンッ」と鋭い音を立て、まるで見えない刃で正確に切断されたかのように、真っ二つに裂けた。巨大な幹が重力に引かれ、轟音とともに崩れ落ちる。砕けた枝葉が舞い上がり、大地を土煙が覆った。
同時に、空中に潜んでいたボーディもバランスを崩し、無防備な状態で地面へと落下していく。
しかし——この突然の攻撃にもかかわらず、ザックたちの表情には動揺の色はなかった。むしろ、彼らの唇には確かな笑みが浮かんでいた。
「計画、開始だ!」
次の瞬間、燃え盛る炎の壁が轟音とともに出現したボーディの間に立ち塞がる。
ほぼ同時に、ザックたちは素早くポケットから小型爆弾を取り出す。それは火花を纏った小さな球体だった。彼らはそれを正確に敵の方向へと投げ、ザックが鋭く叫ぶ。
「膨張しろ!」
——ボッ!
小さな球体は、一瞬にして風船のように膨らんでいく。乒乓球ほどのサイズだったそれは、わずか数秒でバスケットボールほどの大きさにまで膨張した。
そして——
「ドォォォンッ!!!」
爆炎が闇を引き裂くように炸裂した。凄まじい衝撃波が四方へと吹き荒れ、地面に積もった落ち葉や小石が舞い上がる。紅蓮の光が闇夜を染め。
——すべては、計算通り。
ザックは冷静に戦況を見つめながら、作戦会議の内容を思い返す。
「俺たちは不利な状況にある。しかし、その不利を逆手に取る。」彼の声は低く、鋭かった。
「全員、小型爆弾を持て。敵が俺たちを狙うのは確実だ。その瞬間、爆弾を投げつけ、爆発の混乱を利用する。倒すのが目的じゃない。時間を稼ぐんだ。」
「爆発の直後、エイト——お前が最速で動け。襲ってきた相手に魔法石があるかどうかを確認しろ。」
「もし魔法石がなかった場合、それは残りの2人が持っていることになる。その時はハサミのサインを出せ。もし魔法石を手に入れたら、拳を握りしめて高く掲げろ。」
「爆発の混乱を利用し、俺たちは残りの2人を狙う。戦うんじゃない——奪うんだ。」
ザックは静かに仲間たちを見渡した。
「やつらは計画が崩れた瞬間、必ず混乱する。しかし、その混乱が続くのはせいぜい**5秒、最長でも10秒。もし10秒以内に冷静になられたら……その時点で、俺たちは詰みだ。」
彼の声は静かだったが、まるで戦場に鳴り響く戦鼓のように、仲間たちの心に深く刻まれた。
——勝負の鍵は、一瞬の隙。




