第38話 14 奇妙なもの
ザックは拳を固く握りしめ、その掌には魔力の波紋が淡く広がっていた。口元には自信に満ちた笑みが浮かぶ。
「——速度強化!!」
ザックの叫びとともに、淡い青色の魔力が爆発的に広がり、四人の体を包み込んだ。空気が魔力によって揺れ動き、かすかな波紋を生み出す。速度の上昇はわずかだったが、それでも十分だった。四人は風のように駆け抜け、戦場を抜け出していく。
眩惑と混乱から魔物たちがようやく正気を取り戻した頃には、すでに四人の姿は遠く消え去り、そこに残されていたのは荒れ果てた戦場と、まだ微かに漂う熱気のみだった。
——彼らは無事に危機を脱したのだ。
「ザック、君の作戦は大成功だね!やっぱりこのパーティーに君は必要不可欠だよ。」
サンディがザックを振り返り、感謝と称賛の色をにじませながら言った。
「いやぁ、そんなに褒められたら照れちゃうよ。」
ザックは頭をかきながら、得意げな笑みを浮かべつつもどこか恥ずかしそうだった。
ナイトは目を細め、考え込むように黙り込んだ。そして少し間を置いた後、思案気に口を開いた。
「それにしても……ザックの魔法、俺たちが初めて会った時よりも強くなってないか?気のせいか?エイト、お前はどう思う?」
その言葉に、エイトは淡々と答えた。
「あ?何の話?悪い、戦闘が終わってからずっと漫画読んでたから、全然聞いてなかったわ。」
……沈黙。
サンディ、ナイト、ザックの三人は、同時に呆れ果てた表情を浮かべた。
(コイツ、一体どうやって猛スピードで走りながら漫画読んで、しかも障害物を完璧に避けてんだ!?)
三人は心の中で揃ってツッコミを入れたが、それを口にする間もなく——
ザックの表情が急に険しくなった。
「……何かおかしい。」
彼は僅かに眉を寄せ、周囲の森へと鋭い視線を走らせた。
ナイトはその異変に気付き、即座に尋ねる。
「何がおかしいんだ?」
サンディもまた何かを感じ取ったのか、静かに頷きながら言った。
「実は……私も、戦闘中から妙な違和感があったの。」
ザックは深く息を吸い込み、慎重に言葉を選びながら話し始めた。
「そうだろ?お前らも気付いてるはずだ。さっき襲ってきた魔物の中には、確かに攻撃的な種もいた。だが……本来なら、襲ってこないはずの魔物まで、迷いなく俺たちに襲いかかってきたんだ。」
ナイトの表情が険しくなる。
「つまり……どういうことだ?」
ザックは目を細め、低い声で続ける。
「ヤツらは——普段なら戦闘を避けるはずの魔物すらも、躊躇なく俺たちを襲った。」
サンディは腕を組み、考え込むように呟いた。
「もしかして……私たちが彼らの縄張りに入ってしまったとか?あるいは、知らぬ間に何かしらの脅威を与えてしまったとか?」
「俺も最初はそう思った。」
ザックは静かに首を振る。




