第38話 08 「奪還作戦、開始!」
「こんなにいいものを持っているなら、なぜ今まで出さなかったんだ?」
ナイトは眉をひそめ、少し疑問を含んだ声で言った。
ザックは壁にもたれかかり、口元にわずかな笑みを浮かべながらも、どこか諦めたような表情を見せた。
「さっき言ったばかりだろ?」
彼の声は静かでありながら、どこか確信に満ちていた。
「この薬は体力を激しく消耗する。つまり、短期決戦にしか使えない。もし短時間で敵を倒せなかったら、効果が切れた瞬間、俺たちは全くの無防備になる。ただの的に過ぎなくなるんだ。もし、さっきこの薬を使っていたらどうなっていた? その時、俺たちはまだ石を持っていた。あいつらは執拗に追ってきて、戦闘時間はどんどん長引く……そうなれば、待っているのはもっと最悪な結末だ。」
ザックは一度言葉を切り、目を細めた。闇の中で、その瞳は深く光を湛えていた。
「さらに重要なのは——この薬を飲んだからといって、俺たちの力があいつらを上回るわけじゃない。むしろ、互角に戦うことすら幻想だ。だから、今回の計画は最初から正面からの戦いではない。
——石を奪い返す、それが目的だ。」
彼はゆっくりと顔を上げ、その目に強い意志の光を宿した。
「さっき、サンディに元いた場所に魔法陣を仕掛けさせておいた。まずやるべきことは、石が誰の手にあるのかを見極めること。そして、石を手に入れたら即座に集合し、魔法陣で転送する。それ以外のことは考えるな。」
ザックは手の中の小さな薬を強く握りしめた。その指先は白くなり、微かに震えていた。
「この薬の真の役割は……ほんのわずかの間、生き延びる時間を稼ぐこと。それだけだ。」
そう呟くと、彼は小さく息を吐き、ふっと笑った。
「でもな……たとえ最後に負けたとしても——俺は、人生で一番楽しい冒険だったって思うよ。」
「ったく、」 ナイトは苦笑しながら、軽くザックの肩を拳で叩いた。
「なんでそんなに悲観的なんだよ?」
彼は口角を上げ、まっすぐザックを見つめた。
「これは俺たちの最後の冒険じゃない。始まりだろ? 言ったよな——俺たちは必ずこの困難を乗り越えて、
——頂点まで一緒に行くんだって!」
風が吹き抜け、空気の中に戦意が燃え上がった。




