第38話 04 他人の視線 、とても嫌い。
ザックは俯き、指先でそっと手のひらを撫でながら、微かに震える瞳を閉じた。心の奥底から複雑な感情が湧き上がり、抑え込んできた苦しみが、まるで波のように押し寄せる。喉の奥から漏れる低い声には、長年の孤独と痛みが滲んでいた。
「俺も……実は、同じなんだ。」
彼の声は大きくはなかったが、まるで夜の闇を貫くかのように響いた。その言葉には、苦しみと重みが詰まっていた。
「ずっと昔から、俺は否定され続けてきた。認められたことなんて、一度もない。どれだけ頑張っても、俺の力は変わらないのに……それでも、周りの連中は俺をただのクズだと決めつけた。度胸もない、役立たずの存在だって。」
彼の指がぎゅっと握りしめられ、関節が白くなる。見下され、嘲笑され、無視されてきた日々が、黒い影となって心に絡みついていた。
「仲間の中にいても、あの異様な視線ははっきりと感じた。彼らは何も言わなかったが、それだけで十分だった……そんなこと、もう慣れてしまっていたよ。」
「まるで……俺だけが、この世界と違う波長で生きているみたいに。」
彼はそう呟くと、ゆっくりと顔を上げた。ナイトとサンディを見るその瞳には、言葉では表しきれないほどの複雑な感情が渦巻いていた。
「お前たちも……同じなのか?」
彼の低い声は、問いかけるようでもあり、確かめるようでもあった。
「世界から拒絶され、誰からも認められず、信じてもらえず……仲間になりたいと思ってくれる者もいない。他人の目には、俺たちはただの"異端者"に映る。」
ザックは静かに息を吐き、伏せたまつげがわずかに震えた。彼の世界は、ずっと冷たく、孤独で、どんなに叫んでも誰にも届かない場所だった。けれど、そんな彼の閉ざされた世界に、目の前の仲間たちが一筋の光をもたらした。
彼はゆっくりと顔を上げ、その瞳に迷いを残しながらも、何かを確信したような色を宿した。
「でも……今なら、わかる気がする。」
声が微かに震えながらも、彼ははっきりと言葉を紡ぐ。
「俺はずっと、ひとりだった。孤独は当たり前で、それが俺の人生なんだと思ってた。時々、考えたこともある……俺はこの先、本当の仲間なんて一生できないんじゃないかって。」
「だけど——」
ザックは深く息を吸い込み、苦笑しながらも、どこか吹っ切れたように口元を緩めた。
「お前たちと一緒にいると、そんな俺を決して嫌がらず、仲間として大切にしてくれる。」
「その時、初めて思ったんだ……もしかしたら、俺にも希望があるのかもしれないって。」
彼は小さく笑った。その笑顔には、かつての警戒心も、諦めもなかった。ただ、ほんのわずかに安堵が滲んでいた。
「やっと……本当に受け入れてくれる仲間を見つけたんだ。」
ナイト、エイト、そしてサンディ——彼の視線が一人ひとりを捉え、その胸に静かな温もりをもたらした。
「俺は、もうあの冷たい目に晒されたくない。もう、自分が異端者だと思いたくない。」
「このチームの中で過ごす時間は、俺にとって、すごく大切なものなんだ。」
ザックは少し目を伏せ、どこか呆れたような表情を浮かべる。
「……エイトとナイトのバカどもは、相変わらずトラブルばっかり持ち込んでくるし。」
そう言ってから、彼はサンディをまっすぐ見つめた。その瞳には、かつてないほどの真剣さが宿っていた。
「サンディとは、出会ってまだ間もないけど……昨夜、約束したよな?」
風がそっと吹き抜け、彼の髪を揺らした。その目に映る光は、もう揺らいでいなかった。
「ナイトが言ったように……俺たちは、本当に仲間になれるのかもしれない。」
彼は深く息を吸い、まるで心の中の迷いを振り払うように、強く拳を握った。
「ここから逃げるくらいなら……俺は、全力で戦う方を選ぶ。」
「なぜなら——サンディを助けたいから。」
「お前たちを、助けたいから。」
彼の握りしめた拳は、まるで心の誓いそのものだった。瞳の奥に灯る炎が、強く、熱く燃え上がる。
「だって——お前たちは、俺を本当に受け入れてくれた、唯一の仲間だから。」
ザックの声は力強く、まるでその場の空気を震わせるように響いた。
この瞬間、彼はもう迷わない。
もう、逃げない。
彼は、この仲間たちと共に戦うことを選んだ。




