第38話 03 孤独な人よ、私たちはここで出会った。
ナイトはふと顔を横に向け、サンディを見つめた。彼の瞳にはどこか懐かしさと感慨が滲んでいた。静かに息を吐き、穏やかながらも深い共鳴を孕んだ声で語りかける。
「お前はずっと一人だったと言ったな……実は、俺も同じなんだ。」
その声は大きくはない。それでも、不思議と心の奥深くに染み込んでくるような響きを持っていた。長い年月をかけて蓄積された疲れと、どこか吹っ切れたような安堵がそこにはあった。
「昔から、俺はずっと独りだった。」
ナイトは遠くを見つめる。その視線の先には、自分が歩んできた道が広がっているかのようだった。夜風が髪をそっと撫で、彼の胸に残る重苦しさを少しずつさらっていく。
「俺はずっと探していたんだ……心から信頼できる仲間を、互いに理解し合える仲間を。」
彼の唇がかすかに歪み、苦笑が零れる。それは、自分の理想を笑うようでいて、同時に過去の痛みを懐かしむかのようでもあった。
「だけど、ほとんどの人は俺の考えを理解しなかったよ。甘すぎるって言われた。人間同士、本当の意味で理解し合うことなんてできないってな。」
ナイトはゆっくりと視線を落とし、軽く握った自分の手を見つめる。その指先はわずかに震えていた。まるで、過去の自分の執着を確かめるかのように。
「正直、俺も分かっていたさ。人の心ってのは複雑で、簡単に触れられるものじゃない。どれだけ近くにいたって、相手のすべてを理解できるわけじゃない……だけどさ——」
彼の言葉が途切れる。その瞳に、強い決意の光が宿った。
「俺は、それでも試してみたかったんだ。」
ナイトの口元がわずかに持ち上がる。まるで、何気ない日常の話をするような、そんな軽やかな口調だった。
「それで、アイツに出会った。エイトにな。」
彼の言葉には、どこか温かさと郷愁が混じっていた。大切な思い出をそっと手繰り寄せるような声音。
「あいつ、時々変なことを言ったり、妙な行動をしたりするけどさ……不思議と、そんなところが気に入ったんだ。」
くすっと笑いながら、ナイトの目元が少しだけ柔らいだ。
「それからザックに出会って……そして、お前とも出会った。」
彼は顔を上げ、一人ひとりをゆっくりと見渡す。その瞳には、一点の曇りもない純粋な思いが映っていた。
「お前たち全員が、俺にとって本当に大切な仲間なんだよ。」
夜風が吹き抜ける中、ナイトの声は低く、けれど揺るぎない強さを持って響いた。
「俺は信じてるんだ。俺たちなら、本当に互いを理解し合えるし、支え合えるって。」
「これは俺の願いであり……ずっと追い求めてきた夢でもあるんだ。」
そう言うと、ナイトはふっと微笑み、肩をすくめた。その表情には、どこか吹っ切れたような軽やかさがあった。
「お前たちがどれだけ強かろうが、そんなのは関係ない。」
彼はゆっくりと膝の上に手を置き、指先をわずかに丸める。まるで、この絆をしっかりと握りしめるように。
「大事なのはさ……お前たちと一緒にいると、すごく心地いいんだ。」
それは、何の飾り気もない、けれど真実の言葉だった。彼の声には、感謝と温もりが滲んでいた。
——その時、ナイトの言葉を聞いていたザックは、深く沈黙していた。まるで、心の奥に何か鋭いものが突き刺さったかのように。
「……ずっと、一人だった?」
彼は小さく呟いた。その瞳がゆっくりと伏せられ、思考の海に沈んでいく。
「俺も……ずっと、そうだったんだ。」
彼の指がかすかに動き、手のひらをなぞる。そこには、数え切れないほどの葛藤と苦しみが刻まれていた。
「ずっと、否定され続けて……ずっと、認められなかった。」
「どれだけ努力しても、どれだけ頑張っても……周りは俺を見下し、冷たい目を向けるばかりだった。」
「前のパーティーにいたときも、あの視線を感じていたよ。まるで……俺だけがこの世界のリズムに合っていないみたいに。」
彼の指先が強く握り込まれ、関節が白くなる。
「……ナイト、サンディ。」
「お前たちも、同じだったのか?」
ザックの声はかすれていた。喉の奥に何かがつかえ、息が詰まるような感覚があった。
「俺たちは……この世界に拒絶された者たちなのか?」
「誰からも認められず、誰からも信じられず、誰も俺たちと仲間になろうとしない。」
「そうか……俺たちは、ただの異端者なんだな。」
その言葉を口にした瞬間、ザックの中で何かが弾けた。
彼はゆっくりと顔を上げた。ナイトを見つめるその瞳には、複雑な感情が渦巻いていた。
——そして、ついに、彼は意を決して口を開いた。




