第38話 02 仲間を助けるのに理由なんていらない
サンディの記憶は潮が引くように素早く消え去り、現実が目の前に戻ってきた。心の中にはまだ疑念が残っていたが、それでも全てを証明したいという執念は、ますます強くなっていた。
「俺は、真実を確かめなければならない。」
もし父の言葉が本当なら、この世界の人々は彼の潔白を知るべきだ。父は間違っていなかった。誤解され、嘲笑されるべきではなかった。それを証明することこそ、今のサンディにとって唯一の目標だった。
あの石は、俺の人生で最も大切なものだ。
幼い頃から、サンディは「狂人の子」と呼ばれ続けてきた。嘲笑、疑念、否定の言葉が、まるで見えない鎖のように彼を縛りつけ、息苦しくさせた。それでも、完全に覆せないとしても、せめて真実を知りたい。父が何を思い、何を見たのか——自分の目で確かめたいのだ。
彼は深く息を吸い込み、作り笑いを浮かべながら、静かな声で言った。
「でも、もう俺についてこなくていいよ。」
サンディは俯き、自分の手のひらをじっと見つめる。指先が微かに震え、まるで触れることのできない記憶を掴もうとしているかのようだった。
「俺は、みんなを巻き込みたくないんだ。本当に気にしないでくれ。ここまで手を貸してくれただけで、もう十分感謝してる。だから、この先は……俺一人でやるよ。」
彼は顔を上げた。その微笑みは淡く、どこか遠い。まるで霧に包まれたようにぼんやりとしていて、その奥にある孤独を隠しきれていなかった。
ナイトは静かにサンディを見つめたまま、しばらく沈黙していた。そして、ゆっくりと立ち上がり、口元に薄く笑みを浮かべた。
「……そういうことか。」
彼は低く呟き、目を細める。
「あの石が、お前にとってそんなに大事なものだったんだな。」
そう言いながら、ナイトは衣の裾についた埃を軽く払う。その瞳には、揺るぎない決意の光が宿っていた。
「だったら、取り戻さないといけないな。」
サンディは驚き、慌てて手を振った。
「本当にいいよ!俺一人で十分だ!ずっとそうしてきたし、もう慣れてる。それに……お前たちには、そこまでしてくれる理由なんてないだろ?」
ナイトはその言葉を聞き、少しだけ眉を上げた。そして、ゆるりと視線を動かしながら、どこか楽しげな表情を浮かべる。
「理由?そんなの簡単だろ?」
彼の口元の笑みが深まり、まるで当たり前のことを言うかのように、堂々と告げた。
「仲間の夢を奪われたんだ。だったら、仲間としてそれを取り戻す。それだけのことだろ?」
「それ以上に、何か理由がいるか?」
サンディは言葉を失った。ナイトのまっすぐな眼差しを見つめると、喉の奥が詰まり、何も言えなくなってしまった。




