第38話 01 世界に拒まれし者
「私の石……たぶん彼らに奪われた……」
サンディの声は動揺に満ち、指先がかすかに震えていた。
「ダメ……!絶対に取り戻さなきゃ!あれは私にとって、一番大切なものなの!」
彼女は焦燥と悔しさをにじませながら、必死に訴えた。
「でも、今戻るのは自殺行為だろ?」
ザックは眉をひそめ、冷静に言った。
「追いついたところで、俺たちの力じゃ石を奪い返すなんて無理だ。」
「その石……どうしてそんなに大事なんだ?」
エイトが首をかしげ、疑問を投げかける。
「特別な意味でもあるのか?」
「もちろんあるわ!」
サンディは即答した。
「それは、私が一生をかけて証明したいものだから!」
「証明……?何を?」
ザックが横から尋ねる。
サンディは一瞬口をつぐみ、言うべきかどうか迷っているようだった。
やがて、小さく息を吐くと、静かに語り始めた。
「本当は、あまり話したくなかったんだけど……その石のことは、私の父に関係しているの。」
彼女の声は少し沈んでいた。
「私の父も、私と同じ魔法使いだった。名前はブルー。」
「ブルー?」
ザックは驚きの表情を浮かべる。
「その名前……どこかで聞いたことがある……まさか……」
言葉の途中で、彼はハッとしたように黙り込んだ。
「そう……」
サンディは静かに頷く。
「世間では、"狂った魔法使い"と呼ばれた人よ。」
彼女の目に、わずかに痛みが宿る。
「でも、彼は私の父だった。
かつては、とても優れた魔法使いだったのよ。
けれど、ある日、あの石を見つけてから……まるで狂ったように変わってしまった。」
「父は言ったわ。"この石には計り知れない魔力が宿っている"って。
"もし誰かがその力に耐えられるなら、人智を超えた存在になれる"って。」
「でも、当時の名だたる魔法使いたちは、全員それを否定した。
それでも父は諦めなかった。
彼は、世の中にその力を証明しようとし続けた。」
「だけど……結局、死ぬまで"狂人"と呼ばれたままだった。」
サンディの声は震え、彼女は拳をぎゅっと握りしめる。
「正直に言うと……昔の私は、世間の言うことを信じてた。」
彼女はぽつりと呟く。
「でも、私の考えを変えたのは……おじいちゃんだった。」
――それは、幼い日の記憶。
サンディは小さな足で庭を駆け、おじいちゃんの元へ向かった。
「おじいちゃん!」
彼女は頬を膨らませ、不満げに言う。
「クラスの子たちがね、"お前の父さんは頭がおかしい"って言うの!
みんながそう言うのは、やっぱりあの石のせいなの?」
老人はしばらく彼女を見つめ、穏やかに微笑んだ。
優しく手を伸ばし、サンディの髪を撫でる。
「違うよ、サンディ。」
彼の声は、静かで、しかし確かな力を持っていた。
「お前の父さんは、素晴らしい人だった。」
「彼がそう言ったのには、きっと理由がある。
だからこそ、お前にも信じてほしいんだよ。」
「彼は、誰よりも"信じてくれる人"を必要としているんだから。」
老人は静かに息を吐いた。
「……なにせ、わしの魔法の腕は大したことないがな。
だが、彼はわしの息子であり、聡明な男だ。
だからこそ、わしは何があっても彼を信じるよ。」
「今はまだ誰も分かってくれないかもしれんが、いつかきっと分かる時が来る。」
彼は再びサンディの髪を撫で、温かく微笑んだ。
「他人の言葉に惑わされることはない。
サンディ、お前はとても賢く、美しい子だ。」
「わしは信じているよ。
お前は、必ず立派な魔法使いになる。」




