第37話 14 逃げ切った!
エイトは強くザックを抱きしめ、その激しい鼓動が互いに伝わるほどだった。ナイトは足元をふらつかせながら遠くへと逃げ、額の汗が頬を伝い落ちる。夜風が鋭く耳元をかすめる中、三人は何度も後ろを振り返った。あの三人が追ってこないかと恐れていたのだ。しかし、幸運なことに、彼らが追ってくる気配はなかった。まるで初めから追うつもりなどなかったかのように。そして、三人はようやく人の気配のない荒涼とした場所へたどり着き、力尽きたように足を止めた。
エイトは肩で息をしながら、未だに恐怖の色を滲ませた声で言った。
「……あいつら、ヤバすぎる……なあ、ここまで来ればもう安全だよな?」
ザックは膝に手をつき、荒い呼吸を整えながら慎重に周囲を見回した。
「今のところは……問題なさそうだ。魔力探知では、俺たち以外に生体反応はない。」そう言いながらも、彼の眉はわずかにひそめられていた。「……とはいえ、あいつらが魔力探知を無効化するスキルを持っていないとも限らない。俺たちは、まだ三人のうち一人の力しか把握できていないからな……」彼は息を吐き、険しい表情を和らげた。「ともかく、今はひとまず落ち着こう。」
サンディは地面にへたり込み、張り詰めていた神経がようやく緩むのを感じた。しかし、恐怖の余韻はまだ消えていなかった。
「……本当に、死ぬかと思った……あの状況じゃ、全員殺されるって思ったよ……」彼女は震える指先を握りしめながら、瀕死のナイトへと視線を向ける。「でも、今はナイトを助けることが最優先……!」
エイトもその場にしゃがみ込み、ナイトの傷をじっと見つめた。その目は冷静で、落ち着いた口調で問いかける。
「どうだ?助かる見込みはあるか?……もしダメなら、仲間や家族に知らせないと……」
ザックは顔をしかめ、エイトを睨んだ。
「おいおい、そんな最悪な結論を出すの、早すぎるだろ!?聞いてるこっちが怖くなるわ!」
サンディはナイトの傷を調べながら、唇を噛みしめた。
「……ひどい傷だけど、致命傷ではない……皮膚は強酸で焼かれてるけど、内臓は無事みたい……」彼女は大きく息を吸い込み、両手をナイトの胸元にそっとかざした。「でも、私の回復魔法じゃ完璧に治せるかわからない……それでも、やるしかない……!」
その言葉と同時に、彼女の掌から柔らかな癒しの光が溢れ、ナイトの傷ついた体を静かに包み込んだ。ザックとエイトはその光景を見て、ようやく安堵の息を吐き、どさりと地面に座り込んだ。
夜風が静かに吹き抜け、焦げた血の匂いを遠くへと運び去る。ただ、炎の揺らめきに照らされたのは、疲れ果てた三人の顔だけだった。




