第37話 12 「三十六計、逃げるが上策。」
ナイトはすでに死の淵をさまよい続けていた。荒い息遣いとともに、身体は今にも崩れ落ちそうになっている。
しかし、その瞬間、エイトが勢いよく立ち上がった。彼の瞳には、揺るぎない決意の光が宿っていた。
ボーディは目を細め、エイトの動きを捉えると、口元に冷笑を浮かべた。
「なんだ?お前もあいつと同じ末路を辿りたいのか?」
ボーディは余裕のある口調でそう言いながら、ゆっくりと手を持ち上げる。「まあ、焦るなよ。じっくり楽しもうじゃないか……」
だが、その言葉が終わる前に——
エイトが鋭く腕を振り、黒い球体を一直線にボーディへと投げつけた。
「ザック!」
エイトは鋭く叫ぶと、同時にボーディへと猛然と駆け出す。
「了解!」
ザックは即座に応じ、鋭い視線で飛翔する球体を捉えた。精神を集中し、わずかに目を細める。
球体は空中でかすかに膨張し始め、まるで何かを蓄えているかのようだった。
ボーディは鼻を鳴らし、まったく意に介さない様子で嘲笑を深めた。
「今度は何だ?爆弾か?どんな攻撃だろうと、俺にはかすり傷ひとつつけられん!」
言葉と同時に、彼は右手をひねり、掌から三匹の緑がかった強酸の蛇を放った。
蛇たちは矢のように球体へと向かい、一瞬のうちに巻きつき、その鋭い牙で深く食い込んだ。
シュウウウ……!と腐食の音が響き渡り、まるで球体が瞬く間に溶かされるかのようだった。
しかし——ボーディの誤算だった。
この球体の中に詰まっていたのは、爆発物などではなく……小麦粉だったのだ!
「ボンッ——!」
瞬く間に、白い粉塵が辺り一面に広がり、まるで霧のように視界を覆い尽くした。
ボーディは一瞬動きを止めたが、すぐに嘲るように笑った。
「フン……くだらん小細工だな。こんなもので俺を封じられると思うか?冗談じゃない。たとえ目が見えなくとも、お前たちの居場所など手に取るように分かる!」
だが——その瞬間。
ボーディが無意識に吸い込んだ空気が、鼻腔を鋭く刺激した。
「ゴホッ——ゴホッ、ゴホッ!!」
突如として激しい咳がこみ上げ、喉が焼けるように熱くなった。目には勝手に涙が滲み、視界がさらにぼやける。
「……な、なんだと……!? これはただの小麦粉じゃない……くそっ、中に胡椒が混ざってやがる!」
苦しげに咳き込むボーディの前に、白い霧を切り裂くように現れた影があった。
鋭い眼光を放ち、猛スピードで迫る——
エイトだった!




