第37話 11 「骨だけになれ」
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「くそっ……早く立て!」
ザックは歯を食いしばり、荒い息を吐いた。心臓が激しく鼓動し、全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。目の前の怪物を睨みつけるが、足元が僅かに震えていた。
——ありえない。あの一撃は俺の全力だった。それなのに、こいつはまだ立っている……!?倒れるどころか、ほとんどダメージを受けた様子すらない……どうすればいい?
さらに最悪なのは、こいつがこの場で最弱だということだ。 ならば、あの男と女は? もしこいつよりも強いのだとしたら——
背筋を冷たい汗が伝う。
ザックは混乱しそうになる思考を必死に抑え込み、全員が無事に逃げる方法を模索した。
ナイトの視線は落ち着きなく周囲をさまよい、こめかみには汗が滲む。
敵はサンディたちの方へ向かっていた。
マズい……!止めなければ!
ナイトは咄嗟に剣を振り上げ、もう一度バウディに向かって斬りかかった。
——しかし、その瞬間。
「なぜ自分が俺に攻撃を当てられると思った? 力にせよ、速度にせよ、お前は俺には到底及ばない。妄想はやめるんだな。」
冷ややかな声が響いた。
ナイトの刃が届く前に、理解してしまった。 これが無謀な足掻きに過ぎなかったことを。
バウディは微かに口角を上げた。まるで哀れな子供を見下すかのような、嘲るような微笑。
「本気で思っていたのか?」
「たった数人の駆け出し冒険者が、俺たちを倒し、無傷で帰れると?」
「俺を……何だと思っている!」
その瞬間——
ナイトの体が空へと引きずり上げられた。
「ぐっ……!!」
鋭い痛みとともに、幾匹もの強酸を纏う蛇が四肢を絡め取る。
「く……ぁ……!」
剣が手から滑り落ちる。
視界が揺らぎ、腹の奥からこみ上げる痛みに思考が濁る。
蛇の鱗は鋼のように固く、ねっとりとした粘液が表面を覆っていた。その身体から流れ出る強酸がポタリ、ポタリと地面に落ち——
——ジュゥゥゥ……!
腐食する土、立ち上る白煙。
地面がじわじわと溶かされ、骨さえも残さぬほどの破壊力を示していた。
「骨だけになれ。」
バウディの声は、氷のように冷たかった。
それは、まるで当然のことのように。
——俺は、ここで死ぬのか?




