第6話 12チャーリーとヘンリー
爆炎が夜を引き裂いた。
カニディの中心から生じた炎の爆発は、まるで獣が咆哮するような轟音を響かせ、猛烈な熱波とともに四方へと広がった。地面が震え、巻き上がる炎は暗闇を照らし、空気すらも焼き尽くす勢いだった。
「くっ……!」
リードとニックスは瞬時に身を翻し、その暴力的な爆発を間一髪で回避する。しかし、避けきった安堵も束の間——
「——ッ!」
ニックスの足元で地面が裂ける。彼の足首が、無情にもひどく捻られた。
鋭い痛みが走り、片膝をついた彼は歯を食いしばる。
「くそ……動けない……!」
絶望的な状況の中、背筋に走る戦慄——
目を上げた瞬間、そこに立っていたのは 炎の王、カニディ。
「ほう、動けないのか?」
燃え盛る業火を背負いながら、悠然とニックスの前に現れる。
その瞬間、ニックスの心臓が強く打ち鳴らされた。
——死が迫っている。
——ゴォッ!!!
突然、目の前で 影が閃く。
「……ッ!」
誰かが ニックスの前に飛び出した。
リード——彼が身を挺して立ちはだかる。
だが、カニディの動きは一瞬だった。
その巨大な手がまるで 運命を決める神のように、リードの胸元へと押し当てられる。
——その瞬間。
「燃えろ。」
——ボッ!!!
炎が噴き出す。
カニディの掌から解き放たれた業火が、獰猛な獣のように唸りを上げ、リードを飲み込んだ。
その背後に広がる森もまた、一瞬で炎に包まれる。
大気は高温にさらされ、空気が軋む。
まるで世界が燃え尽きるかのような景色——
——そして、リードの身体が、地面に崩れ落ちた。
「リード……?」
ニックスの目が見開かれる。
——今、何が起こった?
——何を、見せられた?
彼の頭の中が混乱する。
たった数秒の出来事が、永遠のように感じられる。
「うーん、この男……もう死んだのか?」
カニディが、つまらなそうに呟いた。
彼の目は、倒れたリードの亡骸を眺めながら 冷酷な光を帯びている。
「本当に脆いな。あの二人が言っていたほどの "最強" でもなかったか。」
彼は腕を組みながら、ふと考え込む。
「そういえば……あの二人の名前はなんだったかな?」
「チャーリーとヘンリーだ!」
ニックスは反射的に叫んだ。
カニディは少し驚いたように彼を見つめると、ニヤリと笑みを浮かべた。
「……ああ、そうだった。チャーリーとヘンリーか。」
「なぜ、君は彼らを知っている?」
ニックスの声は震えていた。
カニディはその様子を 楽しそうに 見つめながら、指をパチンと鳴らした。
「お前たちの中に リック って奴もいたよな?」
「知ってるぜ。」
「そうだな……あの巨型ゴブリンをお前らに襲わせたのは、俺の仕業だ。」
——背筋が凍った。
「俺が手配したんだよ。あの化け物をな。」
カニディは悠然と語る。
「お前が死んだら、次はその リック って奴を探しに行くつもりだ。」
——ぞわりと、冷たい恐怖が背筋を這い上がる。
「まあ、お前たちが あまりにも弱すぎた からな。……仕方ないが。」
「ヘンリーとチャーリー……彼らは……死んだのか?」
ニックスの声は、かすれていた。
——恐怖。
——怒り。
——絶望。
幾重もの感情が渦巻く中、カニディは肩をすくめる。
「さあ、どうだろうな?」
——その口調は、あまりにも軽い。
「お前が死ねば、死後の世界で聞けるんじゃないか?」
——そして、カニディは冷たく笑った。




