第6話10絶対的な戦力差
リードは荒い息をつきながら、崩れかけた地面の上に立ち尽くしていた。
——先ほどのは、まさに全力の一撃だった。
それでも、この怪物を倒すには至らなかった。
まるで無限の業火が凝縮されたかのような、圧倒的な威圧感が辺りを支配している。
額に滲む汗を拭う間もなく、リードは鋭くニックスに目を向けた。
「……分かった、みんな、早く——」
しかし、その言葉が完全に発せられる前に——
——ドンッ!!
突如、灼熱の気流が周囲を蹂躙する。
風の唸る音と共に、赤黒い影が閃光のような速さで彼らの前へと現れた。
その瞬間、空気が重く歪み、炎の熱気が肌を刺すように襲いかかる。
「……静かに。」
低く響く声と共に、火焰精霊の巨大な手が伸びる。
——ギィッ……!!
ニックスの首が、その猛々しい手のひらに絡め取られた。
「くっ……!」
反応する暇もなく、火焰精霊はまるで無機質な鉄塊のような力強さで、そのままニックスの身体を振り上げ——
——ドガァァンッ!!!!
凄まじい轟音と共に、ニックスの身体が地面へと叩きつけられた。
地表は衝撃を受け、クモの巣状の深い亀裂が一瞬で広がる。
無数の岩片が砕け散り、粉塵が舞い上がる中、ニクスの姿は瓦礫の中に沈み込んだ。
その衝撃の激しさに、まるで大地そのものが悲鳴を上げたかのようだった。
——この怪物には、勝てない。
誰もがその現実を突きつけられた。
血の気が引く。
逃げなければ——そう悟った者たちは、恐怖に駆られ、我先にとその場を離れようとした。
「……逃げるな。」
低く、しかし確実に響く、抑えきれぬ嘲笑。
「ゲームはまだ始まったばかりだぞ?」
火焰精霊はゆっくりと腕を上げ、次なる獲物を狙うように手を伸ばした。
だが、次の瞬間——
——ズバァンッ!!!!
閃光のごとく、一筋の巨大な剣が火焰精霊の頭上から振り下ろされる。
圧倒的な斬撃が火焰精霊を襲うも、その怪物は僅かに身を逸らし、難なく攻撃を回避した。
そして、冷笑を浮かべながら呟く。
「おお……まだ反抗する者がいるか?」
ゆらめく炎の中、その瞳が赤く燃え上がる。
「お前がさっきの一撃を放った男か。なるほど……なかなかの力と精度だな。」
しかし、火焰精霊は肩をすくめ、余裕の表情を崩さない。
「ただ、時間がかかりすぎたな。」
「……私に教訓を与えるつもりはない。」
リードは迷いなく、再び大剣を振り下ろす。
だが、火焰精霊は微動だにせず、指先一つでその刃を弾いた。
「私はお前のようなものではない。」
火焰の揺らめく中、その影はますます巨大に見えた。
「私の名は……カニディだ。」
「戦いの最中に、わざわざ名を名乗るのか?」
「フフ……名前を名乗るのは、相手への敬意だと思うが?」
リードは剣を構えたまま、冷たく答えた。
「すまないが、お前を尊敬するつもりはない。」
カニディはわずかに眉を上げた後、にやりと笑う。
「おや……なんとも悲しいな。」
そして、次の瞬間——
「——それじゃあ、死ね。」
業火が、すべてを焼き尽くす。




