第6話09バーニングクラウン!
リードは、膨大な魔力を凝縮した剣を高く振り上げ、その切っ先を燃え盛る火焰精霊へと叩きつけた。
——刹那。
剣が振り下ろされた瞬間、爆発的な衝撃が大気を震わせ、猛烈な煙と火花が四方に弾け飛んだ。轟音とともに視界は白煙に覆われ、熱気が肌を焼くように押し寄せる。
「……決まったか?」
リードは息を整えながら、煙の向こうに視線を凝らした。しかし、何かがおかしい——手応えがない。
——まるで、空を切ったかのような違和感。
焦燥感が胸を締め付ける。徐々に煙が晴れていくと、そこに現れたのは、先ほどまでの火焰精霊とはまるで別物の姿だった。
全身を紅蓮の鎧に包み、頭上には燃え盛る焰の冠。
それは、ただの精霊ではない——まるで炎を統べる王そのもの。威圧感が場を支配し、その佇まいには圧倒的な風格があった。
「……将軍、やはり油断していましたね?」
低く響く声が空気を震わせる。火焰精霊は冷ややかな視線をリードに向け、ゆっくりと歩み寄る。
「何度も忠告したはずです。"慎重に行動しろ"と。焦りすぎは禁物。そんな軽率な攻撃では、計画が台無しになってしまいますよ。」
リードは歯を食いしばりながら、その言葉をしっかりと受け止めた。
「……ご指摘、感謝します。」
その静かな声には、悔しさと、それ以上の覚悟が滲んでいた。
火焰精霊は満足げに頷くと、ふとリードの体に目を向ける。そして、まるで当然のように言った。
「あなた、負傷していますね。無理をするのはよくありません。少し休んでいてください。」
リードは言葉を失う。
——まるで、戦局を完全に支配している者の余裕。
火焰精霊は続けた。
「ここから先は、私が引き受けましょう。あなたはもう十分に戦いました。」
その言葉は、命令ではなく、確固たる意思の表れだった。
リードは一瞬、何かを言おうとしたが、結局、小さく息を吐いて頷いた。
「……ありがとうございます、大人。」
火焰精霊はゆっくりと振り返り、今度は真正面から敵を見据えた。
燃える瞳が獲物を捉え、冷酷な微笑を浮かべる。
「さあ——死ぬ覚悟はできているか?」
一歩踏み出すたび、地面が焼け焦げる。
「できているなら、今のうちに遺言でも考えておくといい。」
その言葉は、決して虚勢ではなかった。圧倒的な魔力が周囲に満ち、炎の気流が渦を巻く。
——この存在は"強者"だ。
それを本能で理解したニックスとリードの額に、冷たい汗が滲む。
あの一撃を受けながら、火焰精霊は傷一つ負っていない。それどころか、まるで何もなかったかのように悠然と立っている。
「……どうする、リード?」
ニックスが焦りを滲ませながら、かすれた声で問いかけた。




