第6話08さようなら
皆が反応する暇もなく、凄まじい衝撃が襲いかかる。爆風のような熱波が一気に押し寄せ、視界が一瞬で赤黒い炎に包まれた。地面が焦げ付き、空気が焼ける音が耳をつんざく。隊員たちは必死に身を守りながらも、何とか体勢を立て直す。
「みんな、行け!」
リードの叫びとともに、隊員たちは計画通り動き出そうとする。しかし——
「一緒に行くのか?それはあまり良い考えじゃないな。」
火焰精霊は余裕たっぷりに片手を振る。そのわずかな動きだけで、灼熱の衝撃波が周囲を薙ぎ払いそうになる。だが、その瞬間、隊長がわずかに生じた隙を見逃さず、精霊の攻撃を受け流した。その間に隊員たちはすかさず計画通りの動きを開始する。
「敵の前で計画を話し合うとは、愚かにもほどがあるな。」
火焰精霊は冷笑を浮かべながら、わずかに後退し、こちらの攻撃をいとも簡単に回避する。その眼差しには嘲りが満ちていた。
「残念だな、せっかくのチャンスを逃すとは。もう一度チャンスをあげようか?」
「二度目のチャンスなんてない。」
リードがそう言い放った瞬間——轟音とともに地面が揺れた。火焰精霊の足元に突然魔法陣が展開され、青白い光が閃く。次の瞬間、水流が勢いよく噴き出し、絡みつくように火焰精霊を包み込んだ。水牢の魔法だ。暴れようとする精霊の体を、水が次第に硬化しながら閉じ込めていく。
「——そんな罠にかかるほど馬鹿じゃないよ。」
誰かがそう言い返した。
「馬鹿はお前だろう?どうして敵の言葉を簡単に信じる?」
実は、リードは話しながら密かに手で仲間に合図を送っていた。これは事前に立てた計画の一環。まるで敵を油断させるように振る舞いながら、本命の攻撃の布石を打っていたのだ。
「この牢獄が俺を閉じ込められると思うなよ。」
火焰精霊は内心で不敵に笑う。しかし——
「俺は前にも言ったはずだ。二度目のチャンスなんてないって。」
リードが再び剣を構えた。その姿は、まるで以前、巨大ゴブリンを討ち取ったときと同じだった。
「またあの技か……」
ニックスは思わず心の中で呟く。剣が淡く光り、やがてその輝きは炎をも圧倒するほどの眩さとなった。刃には膨大な魔力が集まり、空気が震え始める。まるで雷鳴の前触れのような、圧倒的な力の波動が周囲を包み込んだ。
リードの瞳が鋭く光る。
「お前たちは……日暮れ村を攻撃すべきじゃなかったんだ。」
剣を振り下ろす直前、彼の声が静かに響く。
「——さよなら。」




