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第6話04地獄絵図

第二撃の速度は空気を切り裂くほど鋭く、稲妻のような軌跡を描いた。

火焔精霊はまったく反応する間もなく、その身体は閃光のごとき刃に貫かれ、瞬く間に真っ二つに切り裂かれた。


「くそっ……小僧、どうしてお前が突然俺の目の前に現れたんだ……?」


崩れ落ちるように膝をつき、火焔精霊は弱々しく問いかけた。燃え盛る炎の瞳が揺らめき、そこには驚愕と無念が入り混じっていた。


「友達に教えてもらったちょっとした技だよ。」

ニックスは冷笑を浮かべながら、剣を軽く振り払った。刃先についた赤熱の残光が、ゆらりと宙に溶けていく。


「戦いの始めに、お前に剣を向けた時、お前の身体に魔力の印を付けておいたんだ。」


「……何?」


火焔精霊は苦しげに顔をしかめた。焦げる大気の中で、彼の身体は徐々に崩れていく。それでも、なおも問い詰めるように言葉を絞り出した。


「なら……なぜ最初から転移してこなかった……?」


ニックスは肩をすくめ、淡々と答える。


「俺だってそうしたかったさ。でも、お前と戦う前、俺はまだ『魔力神経』の技術を習得していなかったんだ。」


その言葉に、火焔精霊の眉がぴくりと動く。


「魔力神経……?」


「そう。この技術を掌握して初めて転移魔法が使えるようになる。」

ニックスの口調はどこまでも冷静だったが、その瞳には確かな自信が宿っていた。


火焔精霊は歯ぎしりしながら呻く。


「俺の油断……もし早く気付いていれば、お前を始末できたのに……!」


彼の炎が揺らめき、身体の輪郭が淡くなっていく。


しかし、その瞳には敗北の絶望ではなく、狂気とも取れる歪んだ笑みが浮かんでいた。


「だがな……たとえ俺を倒したところで、お前には“あれ”を倒すことはできない……。」


炎の中で、乾いた笑いが響く。


「この勝利はくれてやるよ。しかし、戦争の勝利は俺たちのものだ……。俺たちは、俺たちのものを取り戻す……!」


嘲笑うように言い残し、火焔精霊の身体は風に溶けるように霧散していった。炎の残滓が渦を巻き、空へと消えていく。


ニックスはその場に佇み、無言でその消滅を見届けた。


そして、静かに息を吐くと、小さく呟く。


「……一人で何をわけのわからないことを言ってるんだか。」


彼は剣を収め、ふと手のひらを見つめた。


「でも、この転移のスキル……やっぱり便利だな。練習しておいて正解だった。」


指を軽く握りしめる。力が漲る感覚。


ニックスは前方を見上げ、微かな笑みを浮かべた。


「俺、本当に強くなったな。」


誰に言うでもなく、静かに呟く。


「昔よりもずっと強くなった。これでやっと——みんなを守れるようになったはずだ。」


彼の瞳に宿るものは、勝利の喜びではなかった。


それは、戦場の果てを見据える 燃えるような決意。


遠くで響く剣戟、血と炎が混じり合う死線。戦火はまだ消えていない。


灼熱の太陽が空高く昇り、大地を焼き尽くすように照りつける。

熱風が頬をかすめ、微かに痛みを感じた。


ニックスはその痛みすらも振り払うように、低く叫ぶ。


「よし、行くぞ!」


迷いはない。


——彼は、再び戦場へと飛び込んだ。



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