第6話 02毛虫でも蝶に変身することができます
「喂喂、冗談だろ……?」
ニックスの目の前にそびえ立つのは、まるで城壁のように圧倒的な高さを誇る炎の巨浪だった。燃え盛る紅蓮の波が、今にも彼を飲み込もうとしている。
(こんなの、まともに受けたら一瞬で蒸発する……!)
額に汗が滲む。しかし、ここで足を止めるわけにはいかない。
「もう賭けるしかない……絶対に成功させてみせる!」
自らに言い聞かせるように、ニックスは両手で剣を握りしめた。そして、かつて火烈鳥を倒した時の記憶を脳裏に呼び起こす。あの時、自分はどうやってこの炎を切り裂いたのか——
彼は深く息を吸い込み、全身の魔力を剣へと注ぎ込む。刃が淡く光を放ち、やがて灼熱の輝きへと変わる。その瞬間、目の前に広がる火の津波が襲いかかってきた。
「くそっ!」
ニックスは咄嗟に剣を振りかざし、迫りくる炎へと立ち向かった。全ての魔力を刃に込め、正面から押し返そうとする。しかし、圧倒的な熱量が彼を容赦なく襲い、剣の表面では火花が散る。熱さに耐えきれず、手のひらが焼けつくように悲鳴を上げる。
(ダメだ……もう持ちこたえられない……!)
じりじりと後退しながら、ニックスは瞬時に別の策を思いついた。
(斬れないなら——方向を変えてやる!)
全身の力を振り絞り、剣を押し込みながら炎の流れを変えることに集中する。熱風が肌を焼き、目が眩むほどの光が視界を奪う中——
ほんの一瞬、ニックスはその感覚を掴んだ。
「——円舞曲!」
鋭い叫びと共に、彼の剣が弧を描く。すると、炎の巨浪はまるで目に見えぬ力に導かれるように左へと逸れ、凄まじい熱を孕んだまま弾かれていく。
「よし、成功だ!」
だが、ニックスの動きは止まらなかった。彼はすぐに次の一手を放つ。
「おいおい、見えてないと思ったか?」
口元に不敵な笑みを浮かべ、彼は炎の軌道を計算しながら剣を構え直す。
「お前がそこにいるのは分かってたからこそ、この策を考えたんだよ!」
誘導された炎の津波は、大きな弧を描きながら今まさに炎の精霊自身へと向かっていく——
「自分の技の威力を味わってみろ!」
ニックスの剣に導かれた炎の奔流は、まるで天体の軌道を変えるかのごとく、勢いを増しながら炎の精霊へと襲いかかった。




