第5話05強くなりたいです
「もちろん、もしそれでもやりたくないなら、無理強いはしないよ。」
リードは穏やかな声で言いながら、肩をすくめた。
「結局、誰にだって自分の好きなことがあるからね。
でも——僕は君がこれに向いていると思うんだよ、ニックス。
君は僕に似ているからね。」
彼は静かに微笑み、夜風に揺れる草を指でそっとなぞる。
「僕が望むのは、君が常に自分を信じることだ。
それが一番大事なことさ。」
ニックスは息を呑んだ。
「自信を持っていれば、成功するかどうかなんて関係なく、いつかは何かを成し遂げられる。
たとえ最後に失敗しても、悔いなく笑えるんじゃないかな。
だから——君には君の望む人生を生きてほしい。
それが、僕の願いだよ。」
リードはそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、パンパンと服の汚れを払った。
「さて、説教はこれで終わりだ。あとは君次第だよ。」
そして、ちらりとニックスを見て、少し悪戯っぽく笑った。
「大宴会が始まる。来るか来ないかは君の自由だけど……僕は待っているよ。」
そう言い残し、リードは踵を返し、ゆったりとした足取りで坂を下っていった。
——静寂が訪れる。
ニックスは一人、空を見上げる。
夜空には、数え切れないほどの星々がきらめいていた。
「自分を信じるか……。」
彼はそっと呟く。
「僕も、あの星のように輝きたいな。」
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翌朝、早い時間。
モモコはいつものように、ニックスに薬を届けるために彼の部屋を訪れた。
だが——そこにニックスの姿はなかった。
「……え?」
机の上に、一枚の紙が残されている。
モモコはゆっくりとそれを手に取り、目を走らせた。
『ありがとう。今はもう大丈夫だ。
リードが慰めてくれたんだろう。
僕はもう一度、冒険者として頑張ることにしたよ。』
——その文字は、力強く、迷いのない筆跡だった。
モモコはそれを読み終え、ふっと微笑む。
「やっぱり、彼は立ち直ると思ってたよ。」
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そして、視点はニックスへ——。
彼は朝の光の中、街を駆け抜けていた。
探していた。
必死に、リードを。
心臓が高鳴る。
まだ間に合うはずだ。
そして——ついに、街角でその背中を見つけた。
「リード!!」
強く、大きな声で叫ぶ。
リードがゆっくりと振り向いた。
「おや、どうした?その様子だと、少しは元気になったみたいだね。」
ニックスは息を整えながら、笑みを浮かべた。
「まあまあかな。でも、前よりはずっといいよ。」
「それは良かった。で、お願いって?」
ニックスはまっすぐにリードを見つめ、迷いなく言った。
「どうやったら強くなれるか——教えてほしいんだ。」




