第5話04私はあなたを信じています。
「……僕は、本当に怖いんだ。」
ニックスは、震える声で呟いた。
「毎回、命の危険を感じるんだ。
あのゴブリンがもし自分より強かったらどうしよう。
ここで死んでしまったらどうしようって、戦闘のたびに不安で押しつぶされそうになる。」
彼の目は夜の闇をさまよい、指先は無意識に拳を握りしめていた。
「それは当然のことさ。」
リードは優しく言いながら、夜風に吹かれる草をそっと撫でた。
「僕だって最初は君と同じだったよ。」
彼はゆっくりと夜空を見上げる。
「本当に怖かったし、何度も続けたくないと思った。
でも……結局は続けている。
なぜだと思う?」
ニックスは無言のまま、リードの横顔を見つめる。
「お金が本当にたくさんもらえるからさ……」
そう言うと、リードはくすっと笑った。
「なんて冗談だけどね。……いや、半分は本当かな。」
ニックスは思わず小さく笑った。
「でもね、この仕事の一番いいところは——」
リードはまっすぐ前を見つめ、静かに言葉を紡ぐ。
「誰かを守れることなんだ。」
ニックスは、その言葉に心を揺さぶられた。
「守るべき人たちを守り、『ありがとう』と言われるだけで十分なんだよ。
たとえ自分が大した力を持っていなくても、その瞬間だけは、まるで本物の英雄になれた気がするんだ。
偽善的に聞こえるかもしれないけどね。」
リードは肩をすくめ、笑みを浮かべた。
「君がこの仕事を続ける理由は、まだ見つかっていないかもしれない。
でも、それは焦らなくてもいいんだ。
まず、君に伝えたいのは——」
彼はニックスの肩をぽんと軽く叩いた。
「怖がるのは、普通のことだってことさ。
君は普通の人間だから、死を怖がるのは当然だし、誰だって死の前では臆病になる。
でも——君は逃げなかった。
ちゃんと医療チームを呼んだじゃないか。」
ニックスの目がわずかに揺れる。
「それが、君にできる最善のことだったんだ。
それ以上、自分を責める必要なんてない。
考えすぎると、心が疲れてしまうだけだよ。
今できることに集中すればいい。
後は……ゆっくり、頑張っていけばいいんだ。」
リードはニックスの目をしっかりと見つめ、力強く言った。
「僕は、君を信じているよ。」
その言葉は、まるで夜空に瞬く星のように、ニックスの心に静かに溶け込んでいった。




