第4話 08 一緒に家に帰りましょう!
「爆発だ!!」
ヘンリーの鋭い叫びが木々の間に響き渡った。瞬間、轟音とともに爆炎が弾け、土煙と焦げた空気が辺りを覆い尽くす。黒煙が渦を巻きながら舞い上がり、怒号を上げていたゴブリンたちの視界を一瞬にして奪った。
「今だ…!」
ヘンリーは迷うことなくチャーリーの腕を引き、逃げ出そうとする。が、足を踏み出した刹那、背後から吹き荒れる衝撃が彼らを襲った。
ズシンッ!!
大地が揺れた。振り返ると、巨大ゴブリンが圧倒的な膂力で振り下ろした漆黒の大斧が地面を裂き、鋭い衝撃波が辺りの木々を震わせている。ヘンリーは咄嗟に身を翻したが、完全には避けきれなかった。しまった——!
その時だった。
ズガァン!!
不意に横から飛び込んできた衝撃が、ゴブリンの膝を抉るように打ち砕いた。鋭く乾いた音が響き渡り、巨大な怪物がよろめく。
「クリ…!?」
ヘンリーは驚愕の声を上げた。
「何も言わずに、さっさと逃げろ!!」
クリは荒々しく息をつきながら、二人の前に立ちはだかった。暗闇に映える鋭い眼光、傷だらけの腕から滴る血。彼の周囲には、まるで張り詰めた弦のような緊迫感が漂っていた。
「俺が来なけりゃ、今頃お前ら死んでたぞ。」
「ふざけるな!」ヘンリーは怒りを込めて言い返した。「お前が加わったせいで、死ぬ奴が二人から三人に増えただけだろうが!」
「誰も死なせない。」
クリの声は揺るがなかった。だが、そのやり取りの最中にも、ゴブリンは唸り声を上げながら、再び大斧を振りかざそうとしていた。
その時——
ザザッ…ザザザッ…!!
森の奥から、何かがこちらへと近づいてくる音が響いた。その足音は、異常なほど重く、規則正しい。ゴブリンの動きがピタリと止まり、鋭い鼻息を漏らしながら、警戒するように辺りを見回す。
そして、次の瞬間——
ゴロゴロゴロ…ドサン!!
巨大な何かが転がり出てきた。
全員が息を呑んだ。
そこにあったのは、ゴブリン王の首。
不気味な静寂が場を支配する。
そして——
シュバッ!!
稲妻のような速さで一つの影が駆け抜けた。
ドォンッ!!!
轟音とともに、巨大ゴブリンの顔面がぐしゃりと歪む。続けざまに放たれた強烈な蹴りが、怪物の巨体を容赦なく吹き飛ばした。その動きはもはや音を置き去りにし、かすかに音爆すら生じさせるほどだった。
「どうやら、俺の仲間に随分と手荒い歓迎をしてくれたようだな。」
低く冷たい声が、静寂を切り裂く。
巨大ゴブリンの前に、堂々と立ちはだかる一人の男。その瞳には、怒りと鋭い殺気が宿っていた。
「だから当然、その借りは倍にして返す。」
「隊長!!」
チャーリーの震えるような叫びが響く。
「遅くなったな。」
隊長は微笑んだ。だが、その表情の奥には、これから繰り広げられる闘争への確かな決意が宿っていた。
「心配するな。」
「今からこいつを片付ける。そして——みんなで一緒に帰ろう。」




