第1話 03危険が迫っています!
神秘の森と未知の世界
ニックスはゆっくりと立ち上がり、辺りを見回した。そこは見たことのない、不気味でありながらも美しい森だった。
幹の太い木々は漆黒に近い深い茶色をしており、しかし中心からはまるで命の脈動のように柔らかな白い光がほのかに漏れ出している。それは星のように瞬き、静寂の中で微かに森を照らしていた。周囲には奇妙な植物が生い茂り、根元から発光する花が幽玄な青い光を放っている。
「これは……幻覚なのか?」
ニックスは呆然と呟いた。胸の奥がざわつき、不安が押し寄せてくる。
地震で頭を打って脳震盪にでもなったのか?
もしかして、俺……死にかけてる……?
そう考えた瞬間、心臓が跳ね上がるほどの鼓動を打ち、冷や汗が背筋を伝った。しかし、すぐに自分を落ち着かせるように大きく息を吸った。
「いや……こんな景色、学校の近くでは見たことがない。こんな木、こんな光……これは現実なのか?」
それどころか、周囲の空気すら異質だった。森の香りはどこか神秘的で、甘くも爽やかな未知の匂いが鼻をくすぐる。吹き抜ける風は、どこか異世界の匂いを孕んでいた。
「まさか……異世界?」
この考えが頭をよぎった瞬間、ニックスの胸の奥に熱い興奮がこみ上げた。
「もし本当に異世界だったら……俺にも何かすごい力があるんじゃないか!?」
覚醒への期待と……現実
興奮を抑えきれず、彼は自信満々に両手を広げ、力強く叫んだ。
「燃え上がれ!ファイア!」
目を閉じ、手のひらから炎が噴き出す光景を想像する。熱が生まれ、火の粉が舞い、爆炎が空に昇る——はずだった。
しかし、何も起こらなかった。
「……え?」
目を開けても、手は空っぽのままだ。もちろん、火の粉すら出ていない。
「ま、まだだ!もしかしたら放電系の能力かもしれない……」
期待を込め、今度は別の技名を叫んだ。
「ライトニング・ボルト!」
……無音。
空気すら微動だにしない。手のひらは相変わらず普通のままで、何の変化もない。
「ちっ……じゃあ、風の魔法ならどうだ?」
藁にもすがる思いで、新たな呪文を叫ぶ。
「トルネード!」
すると、その瞬間——
ふわっ……
頬をかすめるように軽い風が吹いた。
「……!?」
彼は一瞬歓喜に震え、辺りを見回す。しかし、目の前にあるのはただの森。空には雲ひとつなく、どこにも竜巻の影はない。
ただのそよ風だった。
「……なんだよ、もう……」
肩を落とし、がっくりと発光する木にもたれかかった。
「俺の能力って、一体なんなんだ……?」
自分に力があると信じていたのに、それが何もないと知った途端、心に冷たい失望が広がる。
忍び寄る影
その時——
カサ……
小さな音が耳元で響いた。
ニックスは一瞬で緊張し、呼吸を止めた。
何かが……近づいてくる。
音の主は、一つや二つではなかった。複数の足音が草の間を駆け抜け、影が木々の間を素早く移動している。
彼はゆっくりと視線を右へ向けた。
すると——
黒い影が、木々の隙間を滑るように疾走していた。
それはまるで猟犬のように敏捷で、確かな獲物を追うかのような動き。
影は一瞬姿を消し、次の瞬間には別の木の間からひょっこりと現れる。その繰り返しに、ニックスの心臓はどんどん速くなる。
何者だ……?
自分を狙っているのか、それともただの動物なのか?
彼はじっと息を潜め、影の動きを注視した。
次の瞬間——
影が突然消えた。
「……!?」
ニックスは辺りを見回した。しかし、どこにもその姿は見えない。しかし、嫌な予感がした。
彼は反射的に後ろを振り向いた。
——そこには、真っ赤な瞳を光らせる何かが立っていた。