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第4話03死の接近

一筋の影が、稲妻のごとく戦場を駆け抜けた。


ヘンリーだった。


左手に短剣を握り、風のような速さで地を蹴る。その動きは滑らかで迷いがなく、武器はまるで身体の一部のように自由自在に操られていた。彼の視線は鋭く、獲物を捕らえた猛禽のようにゴブリンたちへと向けられている。


——その時。


空気を裂く鋭い音とともに、一筋の矢が彼に向かって放たれた。


ヘンリーの動きは止まらない。右手を素早く動かし、手裏剣を放つ。次の瞬間、空中で矢と衝突し、火花が散る。 しかし、ヘンリーは一瞬たりとも躊躇せず、そのまま疾走を続けた。


「……まだ遅いな。」


彼は心の中で呟き、さらに速度を上げる。跳躍と同時に、手裏剣を雨のように放った。鋭い刃が正確にゴブリンたちの頭部を射抜き、鮮血が飛び散る。


しかし、その瞬間——


数十体のゴブリンが一斉に弓を構えた。


「攻撃が来る!」


ヘンリーの鋭い叫びが響く。


「心配するな。」


低く、しかし確かな威圧感を持つ声がそれを遮った。


リードだった。


彼は大剣を抜き放ち、しなやかに跳躍すると、飛来する矢の群れへと突き進む。そして——


一閃。


巨大な刃が宙を舞い、無数の矢を一刀両断する。砕かれた木片が空中に舞い散り、そのまま彼は矢を放ったゴブリンの群れへと突撃した。


その動きは流星のようだった。


振るわれた剣が空気を裂き、凄まじい衝撃波が生まれる。ゴブリンたちは抗う間もなく吹き飛ばされ、大地に叩きつけられた。


「……これが隊長の実力か……!」


ニックスの目が見開かれる。


それは、人間の域を超えた動きだった。


「ふん、隊長はまだ本気を出してないぜ。」


隣でヘンリーが余裕の笑みを浮かべる。


「さあ、始めよう!」


クリがニックスの肩を軽く叩き、力強く言った。「緊張しなくていい。俺たちがいる。」


こうして、激しい乱戦が幕を開けた。


剣が閃き、魔法が炸裂し、無数の咆哮と悲鳴が戦場にこだまする。戦いは熾烈を極め、しかし——


ついに決着の時が訪れた。


地には倒れたゴブリンの屍が転がり、戦場は静寂に包まれる。


ヘンリーは額の汗を拭い、笑った。「はぁ……久々に本気で動いたな。隊長は相変わらず規格外だ。」


「日々の鍛錬の成果だな。」リードは穏やかに微笑む。


「ヘンリー、大丈夫か?」クリが心配そうに尋ねた。


「大丈夫、大丈夫。」ヘンリーは軽く答え、すぐにニックスに視線を向ける。「お前は?」


「私は平気。」ニックスは微笑んだが、その内心ではまだ戦闘の余韻が渦巻いていた。


「……俺のことも心配してくれよ。」


クリが冗談めかして言い、緊迫した空気が一気に和らぐ。


「はいはい、ごめんなさい。」チャーリーが苦笑しながら応じた。


ヘンリーは周囲を見渡し、深く息をつく。「これで任務は完了だよな?」


「そろそろ帰るか。」


安堵の空気が広がり、誰もが一息ついた——その時。


ヒュウゥゥゥ……


不吉な風が戦場に吹き抜ける。


ヘンリーの眉がわずかに寄る。「……何かが足りない。」


「何が?」チャーリーが怪訝そうに尋ねる。


「見てみろ。この数のゴブリンがいたのに、巨人ゴブリンの姿が一体もない。」


その言葉に、全員の表情が凍りついた。


「確かに……今まで気づかなかったが、これは妙だ。」


「ここが特殊な場所なのか?それとも、巨人ゴブリンたちは狩りにでも出かけているのか……?」


——考える間もなく、次の瞬間。


ドゴォォン!!


突如として、爆発のような衝撃音が響く。


「——隊長!?」


リードの身体が、目にも留まらぬ速度で吹き飛ばされた。


「クソッ!伏せろ!」


ヘンリーが即座に叫び、咄嗟に魔法を発動させる。


土魔法・バリアウォール!


ゴゴゴゴゴ——ッ!!


地面が轟音とともに盛り上がり、巨大な土壁が形成される。その直後——


ズドォォォン!!


轟音とともに、巨大な斧が飛来した。


土壁に激突し、衝撃音が戦場に響き渡る。粉々に砕かれた土の破片が宙を舞い、視界を遮るように土埃が立ち込めた。


誰もが息を詰める。


そして、その向こう——


ゆっくりと姿を現したのは、圧倒的な巨躯を持つ影。


土煙の中から浮かび上がる、巨大な筋肉の塊。無機質な赤い瞳が冷たく光る。


「……巨人ゴブリン。」


それは、まるで災厄の化身だった。



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