第2話 07緊急事態
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「……こいつ、まるで悪徳商人じゃないか。」
ニックスは呆れたように呟いた。
「悪徳商人? 失礼ね!」夢子は眉をひそめ、ふんと鼻を鳴らす。「私はむしろ良心的な方よ。これでもかなり安くしてるんだから!」
「いや、そんなにお金持ってないんだけど……」
「知らないわよ? だって、お金を払わないなら――」夢子は唇をゆがめ、目を細めると、不気味な笑みを浮かべた。「ふふ……どうなるか、わかるわよね?」
ニックスはゾクリと背筋が凍った。彼女の顔が冗談に見えない。
「た、助けてくれ!」
夢子は一瞬驚いたが、すぐにケラケラと笑い出した。「冗談よ、冗談! そんなに怖がらないで。」
ニックスは深いため息をついた。
「もしお金が欲しいなら、冒険者ギルドに行くのが一番よ。あそこなら安全だし、仕事もたくさんあるわ。」
「……やっぱり、この世界にも冒険者ギルドがあるのか。」ニックスは心の中で呟いた。「で、そのギルドってどこにあるんだ?」
「すぐそこよ。次の交差点を左に曲がれば見えてくるわ。ただし――」夢子は悪戯っぽく微笑む。「登録するには10ゴールド必要だけどね。」
「……そんなの持ってない。」
「なら、貸してあげるわ。」夢子は懐からコインを取り出し、ひらひらと指の間で弄ぶ。「ただし、返す時は100ゴールドよ?」
「お前、それで悪徳商人じゃないって言い張るのか?」
「何言ってるの、これは適正価格よ。」夢子はニヤリと笑いながら、ニックスの手に10ゴールドを押しつけた。「それと、5000ゴールドの支払いを忘れずにね。」
「……え?」
「それじゃ、行ってらっしゃい!」
ニックスはわけもわからずギルドに向かうことにした。しかし、ギルドに着くなり、受付の人に冷たく言われる。
「武器を持っていないと登録できませんよ。」
「……あっ。」
ニックスは額を押さえた。
「そういえば、まだ武器を返してもらってなかった……」
仕方なく、彼は街の大通りを歩きながら頭を抱えた。
「武器を取り戻さなきゃ。でも、この10ゴールドを使ったら、完全に文無しになる……住む場所すらないのに……」
空を見上げ、思わず叫ぶ。
「神様! どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだ!」
通行人たちは、そんな彼を遠巻きに眺め、ひそひそと囁き合った。
「……うん、今の俺、完全にヤバい奴だよな。」ニックスは自嘲気味に笑う。
ふと、考え込んでいた彼の思考を遮る声がした。
右目を開け、音のする方を見る。
――二人の子どもが、年老いた男性の財布をするりと盗み取るのが見えた。
「……あ?」
老人は気づいて追いかけようとするが、足がもつれ、地面に倒れ込んでしまう。
「クソ、なんて日だよ……」
ため息をつきながらも、ニックスは駆け出した。
「おじいさん、大丈夫ですか? 俺が財布を取り返してきます!」




