第11話 11俺はお前を信じている
ニックスの意識の奥底で、再び幽霊の声が響いた。
「今、お前の体を奪おうとしていると思うか?……いや、今はそんなタイミングじゃない。それに、俺には新しい考えがある。」
その声はどこか楽しげだった。
「前にも言っただろう? 感覚だ、感覚。お前の魔力を使えば、俺の"虚無化"を発動できる。」
「……虚無化?」
「そうだ。体を虚無化し、この魔物の外層をすり抜けることができれば、一撃で倒せる。」
「そんなこと、本当に……」
「残念ながら、お前はまだその技を掌握していない。だから、まずは俺が手伝ってやるよ。」
幽霊の声が微かに笑った。
「心を落ち着けろ、宿主。」
ニックスは反射的に呼吸を整えた。
「前にお前は……」
「それは前の話だ。だがな、お前の体の中で面白いものを見つけた。詳しくは、いずれ話してやるさ。」
「……どういう意味だ?」
「さて、戦いの時間だ。」
ニックスが何か言おうとした瞬間、幽霊は言葉を続けた。
「安心しろ、これは俺たちの精神的な対話だ。現実では、まだ0.1秒も経っていない。」
「……!」
「虚無化とはな、正確には魔力を使って体を"隠す"ことだ。もっと単純に言えば、魔力で体の一部を"消す"こと。」
「そんなことが……」
「今のお前ができるのは、たった一つ。"剣の虚無化"だけだ。」
「剣を……?」
「それなら簡単だ。お前はすでに俺の力を持っている。ただ、まだ使い方を知らないだけだ。」
幽霊の気配が次第に薄れ、視界が現実へと戻る。
——ニックスは、たった一瞬の間に意識の旅を終えた。
「……感覚、感覚か……」
フィードが険しい表情でこちらを見る。
「ニックス、大丈夫か?」
「……分からない。でも、やってみるしかない。」
「なら、俺が時間を稼ぐ。」
「待て、撤退したほうがいいんじゃないか?」
フィードは苦笑し、肩をすくめた。
「ニックス、今の俺たちの魔力で、あいつの目の前から逃げられると思うか? たとえ逃げ出せたとして、この森から無事に抜けられるか?」
ニックスは沈黙した。
「お前ならできる。……前にも言っただろう?」
フィードは、まっすぐな瞳でニックスを見た。
「俺は、お前を信じている。」




