第11話 07影の中の人影
ニックスは剣を抜き、一直線に敵へと突進した。
目の前に立ちはだかるのは、岩のように硬質な肉体を持つ巨人。見上げるほどの巨体は威圧感に満ちていたが、その反応は驚くほど鋭かった。
「くっ…!」
巨人の右腕が振り上げられると同時に、空気が震え、轟音とともに拳がニックスを襲う。しかし、その猛攻を阻んだのは、フィードだった。
「この力…強いな。でも——」
フィードは冷静に拳を受け止め、その勢いを利用して全身に魔力を漲らせる。
「超重撃!」
轟くような衝撃音が響き渡り、まるで砲弾が炸裂したかのように、巨人の腕が粉砕された。砕けた石片が四方に飛び散り、地面に衝突して土煙を巻き上げる。
「今だ、フィード!」
その隙を逃さず、ニックスは瞬時に巨人の頭上へと舞い上がった。
「円舞曲・連撃——!」
鋭い刃が風を切り裂き、光の弧を描く。縦横無尽に繰り出される剣撃が、巨人の首に深々と裂け目を刻み込んだ。
その裂け目を確認したフィードは、勢いよく空中へ跳び上がる。そして、全身の力を拳に込め、一撃必殺の一撃を繰り出した。
「砕けろッ!!」
強烈なアッパーカットが直撃し、巨人の首が豪快に吹き飛ぶ。巨大な石の頭部が宙を舞い、鈍い音を立てて地面に激突した。
巨人の巨体がぐらりと揺れ、ゆっくりと膝をつく。そして、轟音とともに地に伏した。
しかし——まだ完全に死んではいなかった。
巨人の体からわずかに魔力の波動が漏れ、最後の力を振り絞るように微かに震えていた。
「今回は思ったよりも簡単だったな。」
ニックスは息を整えながら、剣を納める。
「俺たち…強くなったんだな。」
フィードも肩を回しながら頷いた。
「ああ、じゃあ吸収を始めるよ。」
フィードが魔力を解放し、巨人のエネルギーを取り込もうとした、その瞬間——。
遠くの森の奥から、じっと彼らを見つめる影があった。
黒い外套をまとったその人物は、静かに呟いた。
「仕方ない…これしかないか。」
その言葉とともに、彼はわずかに指を動かし、倒れた石巨人へと向かって魔力を注ぎ込む。
瞬間、巨人の体から異様な気配が立ち上った。黒々とした魔力がその体内から沸き上がり、まるで命を吹き返したかのように、砕かれた巨体が震え始める。
ニックスとフィードは反射的に後ずさる。
「これは…!?」
謎の人物は冷たく呟いた。
「すまないが、これしか方法がないんだ。」
その声には、どこか悲しげな響きがあった。
「君たちは冒険者になるべきじゃなかった…フィード、ニックス。」
不気味な沈黙の後、地響きが鳴り響く。
倒れたはずの石巨人が、再び動き出したのだった——。




