第63話 14 『沈む陽の意味』
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「……あいつ、今なんて言ってたんだ?」
フィードが眉をひそめて言う。
「なんか、話し方も変だったね。頭でもおかしいんじゃない?」
エリーサが肩をすくめて続けた。
「もしかして、ニックスのこと好きなんじゃない?」
シャーが冗談めかして笑う。
「……ただの狂人だよ。」ニックスは小さくため息をついた。
「なぜか知らないけど、あいつ……妙に俺に執着してるんだ。あの声を聞くだけで、背筋がぞわっとする。会話してるだけで、頭の奥が痛くなるような……そんな気味悪さだ。」
周囲を確認して人の気配がないのを確かめると、星がふっと姿を現し、地面に軽やかに降り立った。
突然の出現に、フィードとエリーサ、シャーの三人が同時に飛び上がる。
「うわっ!?」
「……あ、そっか。君たちからは見えないんだったな。」
ニックスは苦笑しながら言った。
「説明しておくよ。今の俺の状態を――」
そう言って、彼は自分に起きた“幽霊化”の現象を仲間たちに語った。
三人は真剣に聞いていたが、話が終わるころには、全員が微妙な顔でうなずいた。
「うん……全然分からなかったけど、なんかすごくヤバそうな感じだけは伝わったわ。」
エリーサが言うと、
「それは姉さんがバカだからでしょ。」とシャーがすかさず手刀を入れた。
「つまり、ニックスは今、能力を自由に扱えないってことね。」
「ま、あとは祈るしかないわね。この先、もう襲撃なんて起きませんように。」シャが肩をすくめると――
「おいおい! そういうこと言うとフラグが立つんだって!」フィードが慌てて叫ぶ。
「“この戦いが終わったら結婚しよう”って言うのと同じで、絶対やっちゃいけない禁句だぞ!」
「はは……確かにな。」ニックスが苦笑する。
「ともかく、地図に印がある地点へ向かおう。出発だ。」
彼らは再び歩き出す。
一日の長い旅路の末、遠くに巨大な嵐の渦が見えた。
その中心へと進む彼らの背に、沈みゆく夕陽が赤く光を落とす。
――あの男が言っていた“夕日”とは、一体何を意味しているのか。
その疑問が、ニックスの胸の奥で静かに渦を巻き始めていた。
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