第63話 13 『嵐の前線へ』
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フィードもその頃には戻ってきていた。先ほどの敵はすでに意識を失っており、彼はその男を肩に担いで戻ると、地面に放り投げた。
「ふぅ……こっちはもう全部片付いたぞ。」
フィードは手をぱんぱんと叩きながら言った。
「これで本当に終わった、か。」
ニックスは安堵の息を漏らしながらも、周囲を見渡した。もともと戦える人員は多くなかったが、今回の襲撃でさらに減ってしまった。
「このままじゃ、長くはもたないな……」と、彼は低くつぶやいた。
やがて部隊の整理が終わったころ、一つの通信が入った。
通信士が耳に手を当て、内容を確認する。
「了解しました……ですが、それでは人手が……いえ、分かりました。今すぐ実行に移します。」
通信を終えた通信士がニックスたちのもとへ駆け寄る。
「皆さん、本当にありがとうございました。今回、私たちがこの襲撃を耐えきれたのは、皆さんのおかげです。しかし、その代償として戦える人数は大幅に減ってしまいました。このままでは物資も奪われ、犠牲者もさらに増える恐れがあります。」
彼は一呼吸置いて続ける。
「本部との通信が繋がりました。私たち支援部隊は転送紙を使って後方へ帰還します。そして、ニックスさんたちには進路を変更し、最も近い戦場――“暴風戦線”へ向かっていただきたい。あの場所は常に暴風が吹き荒れる中心地の一角で、魔物たちはその嵐を盾にして前線を突破しています。」
「現在、そこへ向かえる人員はほとんどいません。しかも臨時の戦線ゆえ、転送魔法陣も設置されていない。さらに前線の戦闘が激化しており、私たち本隊も撤退を開始したため、しばらく転送は遮断された状態です。ですから――皆さんがあの戦線を支えてくださらなければなりません。どうか、お願いします!」
その真摯な説明に、一同は無言でうなずいた。
「なるほど……次は別の戦場か。」フィードが肩を回す。
「今回は、ちゃんと地図を見ような。」ニックスが言うと、
「だ、大丈夫だって! 私が案内役をやるなら完璧だから!」と、エリーサが胸を張る。
「だからこそ心配なんだよ、姉さん……地図は私が見る。」と、隣でシャーが呆れ顔で答えた。
ニックスは星をそっと肩に乗せた。今の状況では、彼女を空間に戻すことができないのだ。
「……じゃあ、行こうか。」
彼は支援隊の仲間たちに別れを告げるために歩き出す。
その途中、檻の中に閉じ込められたあの男と目が合った。
「ニックス君も、僕にお別れを言いに来たのかな? ふふ……バイバイ、ニックス君。」
男は口角を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべた。
「――あ、そうだ。行く前にひとつだけ聞かせてよ。」
男は首をかしげ、血走った目で笑う。
「君は……“夕日”が好きかい? ハハハハハ!」
笑い声とともに、転送の光が彼の姿を飲み込み、檻の中は空になった。
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